インターネット音楽配信/ユーザー論
今回は音楽配信を利用するユーザー像を描いてみる。実は音楽配信業者がほとんど理解していない分野でもある。
ナップスターは生きている
ナップスターはもう御存知だと思う。音源も含めてファイルを交換する為のアプリケーションを提供している。
アメリカでは音源ファイルを勝手に交換していることが著作権法違反だとして訴訟が起され、一応排除勧告も出ているが、それでも閉鎖されたわけではなく、今も人気のサイトとして存在している。
前にもお話して来たことなので、この話はこれぐらいにして今日の本題に入ろう。
日本のナップスター活用者はCATVやADSL利用者
ナップスターを活用している人は日本でも意外と多い。
CATVやADSL回線でネットに繋いでいる人は、夜になるとナップスターのサイトを訪れ、一晩中音源ファイルをダウンロードしている。
早い話、お気に入りの曲をどんどんハードディスクにコピーしているわけだ。
CDのコレクションをするとなると金がいくらあっても足りないが、これだとコレクションは簡単にできてしまう。
音楽ファンにはとってもハッピーな環境ができてしまうわけだ。
ナップスターはそういったユーザーにとってはエンジェルそのものだ。レンタルレコード店ができたときよりも嬉しいことである。
ISDNじゃナップスターは使いにくい
ただし、先ほども書いたが、これはCATVやADSL、光ファイバーなどでつながっているユーザーだけの話である。
私など、悲しいかな、ISDNである。
どんどん曲をとりこもうと思っても、1曲とりこむのに10分もかかる。
アルバム1枚だと2時間である。
1000枚分のアルバムコレクションを作るには、2000時間必要。一日8時間をダウンロードに使っても250日もかかるのだ。
だれが、そんなことする?
私は実は落語の大ファンである。今でも、新しいCDが出たら、買って来てどんどんカセットに入れている。カセットの方が色々と扱いやすいのである。(MDは今の所考えていない。どちらが便利なのか現在考え中。)
もしナップスターでダウンロードできるなら、とてもハッピーである。
従来だったら買わなかった落語家さんの高座もちょっとは聞いてみようかという気になるだろう。ひょっとすると、贔屓の一つもしてやろうという気になるかもしれない。
これはとてもいいことではないか。
結論、くたばれISDN!
インターネット・ユーザーはフリー(無料)が基本
インターネットはフリーというのが基本だと私は何度もくりかえしてきた。
何故、フリーか?
そうしないとインターネット・ユーザーがやって来ないからだ。(初心者は別)
又々、インターネット・マーケティングの基本図式を書いてみる。
『トライヤーの獲得、リピーターの確保、リピーターのロイヤルユーザー化』である。
トライヤーに来てもらわないと話にならない。そして、楽しそうだなと思ってもらって、もう一度来てもらう。
これが最初のステップである。この段階で金にしようなどと思ってはいけない。
(今の音楽配信業者はみんな最初から金を回収しようとする。大いなる間違いだ。)
最初から金にしようとするな
何回か来ている内に、その人はいわゆる常連さんになる。サイトのシステムも理解してもらえるし、こちらの内部事情もわかってもらえて、比較的寛容の目でサイトを見てくれるようになる。もちろん、心のこもったお叱りもあるだろう。貴重な情報もどんどんサイトに流れ込んでくる。ここまでくれば、とりあえずサイトは成功したと言っていいだろう。
もし、金が発生するとしたらここからだ。
リピーターがロイヤルユーザーに変わっていく時に初めて、ユーザーはサイトに金を払ってくれる可能性がある。
インターネット・ユーザーからパーミションを得よう
阪本啓一さん(surfrider)の話は前にしたと思うが、この方が訳された「パーミション・マーケティング」(セス・ゴーディン著)で表現された、ユーザーからのパーミション(許可)を得ることに成功すれば、そこから初めてコマースが始まるのだ。
その意味では、インターネット・コマースというのは本質的には伝統的な商法に近いと思う。
入り口では確かに現代的な装いをしているが、商売になる時には、伝統的手法がきわめて効果的になるのである。
音楽配信も無料から始めよう
で、音楽配信に戻るが、インターネットを使って商売しようというなら最初はフリー、無料であったほうがいい。
他の付加価値をつけることによって有料の会員制にしてもかまわないが(例えば、ISPを兼ねるとか、インターネット電話の設備が使えるとか)、音楽の利用に対して対価を求めるべきではない。
誤解のないように言っておくが、ただで配れということではない。
第三者が自由に使えるというイメージをユーザーに持ってもらうことが大事なのだ。
音楽産業のファースト・マーケットはまだしばらくはパッケージ系なのである。
ノン・パッケージ系はセカンド・マーケットを新たに創造して、地道に育てていくのが重要なのである。
そして、それが確実なマーケットに成長した時、その時初めてお客さんに買ってもらうのだ。今の構造の中で音楽配信事業が成功するなどと夢にも思わないでもらいたい。
NTTドコモが携帯電話で音楽をダウンロードなんて言っている。あんな値段で普及するはずがない。
コンビニでMDに録音?そんな邪魔臭いこと誰がする?CD買いに(あるいは借りに)行った方が合理的だろう?
コンビニはどこにでもあるから、便利なはずだというのは理解できるが、インターネットがあるなら家でやったほうが合理的でもっと便利に決まっているではないか。
これからの企業はユーザー重視の視点を持った方が勝ちである。
国も役人も守ってはくれない。サプライヤーを育成する為の費用など期待してはいけない。
音楽配信を考えている方々、くれぐれもそのあたりをお間違えのないように。
次回はインターネット音楽配信のまとめをお送りする。皆さんの意見をいつものようにお待ちしています。
01.1.16 Kunio Abe
今回も付録に業界ワンポイントをつけておく。
放送業界のことを書いているので、反響は今までで一番多かった。
放送業界の人が読者に多いからでもあるのだろう。
「出世階段を上っていると自負している貴方、上がり切った所にお花畑などありません。それだけは覚悟して下さい。」という表現に反応が強かったように思う。
私はこの時に、放送業界のメルマガも書かなくてはと思った次第。
業界ワンポイント
どうなる放送業界
いつもは音楽業界の話を書くのですが、今回は放送業界についてです。
BSの受信機が品薄で予想以上に人気などとマスコミが書いていますが、そのまま信じてはいけません。
WOWOWもスカイパーフェクTVも加入者増加などとも言っていますが、これも鵜呑みにしないように。
携帯電話がCDの売上げを食ったとかいわれていますね、それと同じ現象が放送業界に現れるのは必死です。
インターネットがブロードバンド化した時に、果たしてBSにしてもCSにしても、はたまた地上波にしても、今のままで生き残れるでしょうか。
従来はテレビにはオルタナティブがなかったのです。
インターネットは十分その機能を持ち得ます。
悪いことは言いませんから、放送局に勤めている人、2、3年の間に自分しかできないことを見つけておいた方がいいですよ。
コンテンツを作る能力があると思ったら、会社の設備が使える内に、自己開発に努めて下さい。少なくとも、一般人よりはアドバンテージがあるはずですから。
営業に自信のある方は、できれば放送局のサイトのバナーを売るノーハウを掴んでおいて下さい。
放送局と言うだけで、お客さんは一杯サイトにお越しなんですから。(大抵、面白くないので客のリピート率は悪いですけど)
技術の方は、インターネットテレビやラジオのシステムを学んでおいた方がいいです。
まだまだ、技術者への需要はあります。(能力があれば、の話ですが)
ええと、他の部署の方は、、、、、すみません、勝手にサバイバルしてください。
2003年、地上波のデジタル化が始まります。これ自体はとてもいいことなので、どんどん進めてほしいですが、そこの社員の方もいいと言うわけでは勿論ありません。
とりわけ、出世階段を上っていると自負している貴方、上がり切った所にお花畑などありません。それだけは覚悟して下さい。
ええと、今回は未来への警告話みたいになったけど、こんなこと態々書いた私の意図って何だったのでしょう?