アーチストの生きざまが変わる(その2)
今日、京王線の新宿駅を下りると、ブルーを基調にした髑髏マークのポスターが連貼りされていた。
センスのいいポスターなので、態々そば迄行き確認すると、それはオフスプリングのニューアルバム発売のポスターだった。
タイトルは「コンスピラシー・オヴ・ワン」。コンスピラシーというのは陰謀とかはかりごとぐらいの意味だろうか。
で、思い出した。ああ、これが例のアルバムか。
オフスプリング、新作アルバムをインターネット無料公開?
何のことかわからない方に簡単に解説する。
インターネットを使って、無料で音楽を公開すると言い出したのが、アメリカの人気ロック・グループ、オフスプリングなのである。
無料で音楽を公開というと、グレイトフル・デッドが有名だが、今をときめく人気グループまでが、アルバムを一気に公開するというのだから、これは凄いことだなと思った次第だ。
ソニーの逆襲
しかし、この画期的な試みはそう簡単には認められることではなかった。レコード会社にとってはとんでもない悪魔の業である。
同バンドとアーチスト契約していたソニーは、契約条項に反するという理由でオフスプリングに公開しないよう圧力をかけた。
結果、争うのは両者とも不利益であるとして、今回の公開はシングル曲だけとし、アルバムはひとまず無料公開はやめるということになっった。
先月26日のサンノゼからの情報である。
そのアルバムのポスターをこの日見たのだ。日本盤はボーナス・トラック2曲付きと書いてある。しかし、インターネットでの無料公開のことは1行も書かれていない。
次に11/17の日経の記事から。
NTTドコモがPHS向けに音楽配信サービス。1曲が10分程でダウンロードできて、便利になるという。
アホか。
ということで、長い導入部だったが今回は音楽配信とアーチストについての2回目である。
音楽配信2つの問題
オフスプリングの話から、2つ程の問題点が明らかになってくる。
一つは、レコード会社と契約しているアーチスト(特に人気アーチスト)はそう簡単には音源配信を許可してもらえないことである。
そりゃそうだろう。高い金を払って専属契約しているアーチストが、利益構造のはっきりしていない音楽配信に曲を提供されたんじゃ、レコード会社としてはたまったものじゃない。
二つめは、アメリカではシングル曲が無料公開されているのに、日本ではそんな情報はほとんど流布されていないということ。
これも仕方がないかも。ダウンロードに10分もかかるんじゃ、レンタル屋で借りた方が合理的だ。(勿論、CATVとかDSL回線で高速ダウンロードできる人は別)
それにしても、PHSで10分もかかったら、通話料だけでいくらかかるんだ。(通信料は150円程度。情報料350円だって。)
アーチストの選択
さて、例えば貴方がアーチストだったとしよう。
従来は、自分の作った作品が商品化されるには、どこかのレコード会社と契約する必要があった。
そのため、貴方はレコード会社に認めてもらう為にデモ・テープを作ってレコード会社等に送りつけたり、業界人がやってきそうなライブハウスで演奏したりしたてその機会を待つのが普通だった。
今では、これにインディーズというマーケットも加わり、いわゆる二軍的な扱いとはいえ、メジャーデビューのきっかけになる可能性も大きくなっている。
メジャーデビューを目指すのは何故?
それでも、あなたの目指すのはメジャーデビューだ。
日本レコード協会に加盟しているレコード会社とアーチスト契約し、自分のレコードを発売することがとりあえずの目標である。
ではメジャーデビューすれば、どんなメリットがあるのか。
素人の人は、このあたり漠然としたイメージしかないはずだ。
自分を売ってくれる。自分のレコードを作ってくれる。今迄自分達でやってきたことを替わりにみんなやってくれる。
自分を人気者にしてくれて、お金を一杯くれて、何もしなくても裕福な生活を与えてくれる、なんて思っているのだろう。
言い換えるなら、メジャーデビューするということは、東大を卒業したも同然で、後は黙ってても自分は出世するはずだ、という心境だろうか。
こういうのを主観的楽観論とでも呼ばせてもらおう。
メジャーデビューは「私は商品です」宣言
メジャーデビューというのは、こういうことだ。
つまり、その日から、貴方も、貴方が生み出したものも全て商品になるということなのだ。
イメージ的には、競馬馬の競り市みたいなものだ。レコード会社やプロダクションのマネージャーに手綱を持たれて、観客の前を引き回される。
それがメジャーデビューだ。それが商品の生きる道だ。
引き回されるのがそんなに楽しいか?
メジャーデビューは新馬戦デビュー
それから調教が始まり、自分の考えていた世界との違いを嫌という程味わうことになる。
勿論、レースに出れるように、一番走れるような環境は作ってくれる。しかし、走るのは貴方自身だ。まわりは、色んなことを言って貴方を精一杯走らせようとする。
そして、レース開始。つまりはレコードの発売だ。
しかし、レースが始まる時迄に、ほとんど結果はわかるようになる。つまり、レコード会社はせっかく貴方と契約したが、調教していくうちに、こいつは才能がないとか、走っても負けるだろうということはわかってしまうようになるのだ。
当たり前だろう。彼らはそれで今迄飯を食って来たのだ。貴方のような新馬とは人生経験が違うのだ。
競馬と一緒だと言うのはあまりいいイメージではないかもしれない。
メジャーデビューといっても、境遇は天と地
しかし、レコードが売れる要素から考えて両者は良く似ている。
才能がなければ、つまり血統が良くなければ勝てない。
いい厩舎、いい調教師に会わなければ、なかなか勝つことはできない。
つまり、人材のそろったレコード会社、力のある事務所にいるかいないかで、アーチストの能力など何の役にも立たないこともあるということだ。
100メートル走を10メートル後ろから走らされたら、いくら一番速くともトップにはなれない。
金も大事だ。金のない事務所なんかに入ろうものなら大変である。
貴方が稼いだ金はすべて事務所の借金返済に消えていく。レコード会社から入ってくるはずの、アーチスト育成金は、社長の夜の遊興費へ消えていく。
貴方は狭いアパートで、それでも夢を追いながら、今日も作詞をし、作曲をし、夜のコンビニのバイトで、その日の飯代をかせぐ。
何だこれ、これでもメジャーデビューしたアーチストか。
つまりは、メジャーデビューなんて東大卒業なんぞと比べられることではない。競り市で売られる新馬なのだ。
それが芸能界なのだ。
SO WHAT?
音楽配信事業はこんな発想でやってはいけない。
インターネットは情報公開が基本である。こんなアーチストの実態を知れば、アホらしくてメジャーデビューできるか、と普通なら思うはずだ。
では音楽配信事業者はどうやってアーチストを集め、商品化していくべきか、次回はそれを書いてみることにする。
何か今回は筆がすべりすぎているなあ。気をつけよう。
00.11.30 Kunio Abe