ナップスター/グヌーテラ騒動
今回は今話題のナップスターとグヌーテラに少し触れてみる。
ナップスターは99年の夏に発表された。そしてグヌーテラは2000年の3月である。
ナップスターは違法なサイトとして現在アメリカで係争中だ。
これらについての知識はもうほとんどの方が持っておられるだろう。
そこで、私は自分の経験を縦軸にして、この間の状況を捉え直してみることにする。
MP3が悪夢の始まり
映像集団が圧縮技術を駆使してクリエイトしたファイルのフォーマット形式がMP3である。
おかげで、音楽は10分の1の軽さになった。
軽くなると、インターネットに乗せやすくなる。
アメリカは日本のような64kbpsなどという細い通信ラインではない。
音楽なんかあっという間にダウンロードできる。
しかもラインは繋ぎっぱなしだから、通信費なんてかからないに等しい。
それに、アメリカでは新しいテクノロジーは瞬時に事業化される。
このMP3を使った会社が次々とできた。
MP3.COM社もその一つ。
倉庫貸します
MP3ファイルの検索エンジンだと思っていたら、ある日、「CDを購入したら私どもを倉庫代わりにお使い下さい。
一々CDをセットしなくても、ストリーミングで音楽を聞けますよ」などと言い出した。
ユーザーからすれば、CDのパッケージを開けなくてもよいから、新品のまま手許に置いておけるし、データベースなども用意してあるようだから、とても便利、のはずだった。
黙っていないのはレコード会社。
ユーザーがCDを購入したとどうしてわかるんだ。自分のCDをアップするんじゃなくて、人のファイルを只で聞くに決まっている。
MP3はセキュリティも何もないソフトだ。
そんな胡散臭いものは一切許さん。
MP3自体を著作権法違反で訴えたにも拘わらず敗訴したレコード協会、既得権益擁護に走るのは当たり前と言えば当たり前だ。
幸いなことに、MP3.COM社は裁判で敗訴。ほとんどのレコード会社と和解しているが、高い授業料を払わされる結果になっている。
学生の支持を得たナップスター
裁判と言えば、今回話題にしている、ナップスター社だ。
友達同士のCD貸し借りをインターネットでやりましょう、そのサービスを私達のサイトでどんどんやって下さい、という会社だ。
そしてこれが、大ヒット。アメリカの大学の大容量のラインを使って学生達が大量に音楽ファイルの交換に及んだ。
おかげで、大学のラインがパンクし、学生にナップスターへのアクセスを禁止したところも出たらしい。
レコード協会は、勿論こちらも提訴。サービス停止の仮処分命令が裁判所から出ることになった。
しかし、一難去って又一難。悪魔のソフト、グヌーテラが登場するのだ。
こちらはナップスター社のようなサービス主体が存在しない。
つまり、ソフトしか存在しないのだ。それもインターネットで繋がっているどこかに、無数に存在していると言っていい。
レコード協会も訴える相手がいない。
著作権侵害だから使わないでくれと啓蒙するしかないのだ。
のんきな日本の業界〜貧弱な通信インフラ
転じて、日本。
今のところ、これらのサービスは通信インフラの貧弱さが幸いして、ユーザーには支持されていない。
音楽ファイルの交換といっても、一晩かかって10曲程度しかできないなんて言っている人もいる。
当分、ユーザー同士がナップスター等を使って音楽をダウンロードすることなど一般化しないと断言できるが、それもいつ迄続くだろうか。
日本のレコード協会はひとまず安心しているようにも見える。
しかし、アメリカと同じ状況になった時はどうするつもりなのかと、他人事ながら気になることではある。
さて、私の得た情報を、時間列どおりにざっと概観してみたのだが、音楽配信事業にとってこれらのソフトはどんな影響を与えるだろうか。
次に簡単にまとめてみよう。
音楽配信事業の可能性
これは私が繰り返していることだが、今迄の音楽業界と同じ発想では絶対に事業は成功しない。
大量販売の限界
従来は資金のあるところが、契約金等でアーチストを囲い込み、大量販売することによって利益を得てきた。
大量販売はしかし、御存じのように壁にぶちあたっている。
1.CDの販売量が落ちていること。
2.売れるものが偏りすぎ、中堅どころが殆ど利益を回収できないこと。
3.著作権(著作隣接権)をアーチストが所属する事務所に押さえられて
しまい、レコード会社の利益構造が変化(つまり利益率が減少)したこと。
今のままではレコード会社はジリ貧である。
それは音楽配信が始まろうと始まるまいと同じことである。
古臭い体質を変えられないレコード業界
にもかかわらず、レコード会社は従来通りの慣行をやめようとしない。
構造的にはゼネコンに似た構造になりつつある。
基本的に、CDは高い。(アメリカの2倍以上)
CDの売上に依拠する人口が多い。
IT時代に対応できていない。
今の構造を内包しながら、音楽配信が成功するとはとても思えない。
それゆえ、音楽配信で利益を得ようとするなら、これらの限界性を克服する
政策(ポリシー)が必要になる。
アーチストとユーザーのマッチング、それが配信会社の業務
ITの基本はサプライヤーとユーザーのインタラクティブな関係である。
必然的帰結として、両者をマッチングさせる為の経済的費用はゼロになる。
つまり、レコード会社、卸、レコード店が不要になるわけだ。
(あくまで理論上だが。)
音楽配信は両者をマッチングさせるための最適なシステムを用意することが重要である。
いわゆる音楽のポータルサイトという位置付けを基本にしたサービスをするしかない。
アーチストからすれば、自分の作った音楽をサイトにアップさせ、そこへのトラフィックを用意してくれる、ポータルサイトを求める。
自分の曲を理解してくれ、自分の曲を喜んで聞いてくれるユーザーを多く抱えたポータルサイトを心から望むだろう。
私は、この機能を全人格的に表現する為に、ミュージック・デザイナーという存在をポータルサイトに置くべきだと主張している。
インターネット事業の成功を導くのは、1にシステムであり、2に人である。
これが私の音楽配信事業の成功原理である。
コンテンツ至上主義はやめよう!
コンテンツという言葉はわかりやすくていいが、あくまで現在の音楽事業の構造がコンテンツありきだからというしかない。
分野が違うが、日本テレビ系のBSが、巨人戦をキラーコンテンツとしているのが私にはどうにも理解できない。
今の地上波で十分ではないか。
それとも地上波での中継を止めるとでもいうのだろうか。
BSにはBS独自のコンテンツがあるはずだ。
それを研究・開発するために、BSがどういうニーズを持ち、どういうシステムでユーザーを掴めばいいのかを具体的に見せなければ、誰もBSデジタルのチューナーなんか買わない。
今のままで全然不便じゃなければ、どこからそんなニーズが湧いてくるのか?
インターネットは確かに便利だ。じゃ、BSでどれだけ便利になるの?
インターネットの普及は配信事業を活性化する。
音楽配信はインターネット事業である。
それゆえ、これからいくらでもユーザーを獲得できる。
その方法論はすでに私が再三述べてきた通りである。
この場合、ナップスターもグヌーテラも余り関係ない。
音楽の交換は今迄でもいくらでもあった。
それを、自分達の図体がでかくなった為に、どんな利益も逃すまいとするから、レコード協会は衰退していくのだ。
音楽業界は一度ダウンサイジングするしかない。
アーチストは才能さえあれば、どんな形でも飯は食える。
大衆におもねる必要もないし、やりたいことを我慢して、勝手な業界人の思惑通りに動く必要もなくなる。
音楽配信時代のアーチストの生き方は実に様々に存在し始めるだろう。
00.9.25 Kunio Abe
今回も、付録付きです。
『買っても得した気分がしない商品は売れない』という話です。
ちなみにこの文句は私のオリジナルです。でも、勝手に使っていただいてけっこうです。
業界ワンポイント(その10)
絶対ペイしない曲はこれ!
ワイドショーで近頃よく聞く曲といえば、ひろみ聖子のデュエット曲だが、話題性はあっても爆発的には売れないと思う。
わざわざ買いますか?あなたなら。
こういうのを業界では企画ものという。
「だんご3兄弟」なんかもそう。ま、これは売れると断言できた曲。
絶対売れない、と断言できる曲はいくつかある。
例のゴージャスの妹さんの曲。買っても何の得にもならない。
ひろみ聖子もほとんど同じ。得にもならない商品を買う人はいない。
只なら、聞いてあげる。つまりテレビやラジオで聞けば十分というわけ。
不倫騒動を起した寛子さんもそう。
ワイドショーで皮肉っぽく何回も「不倫はだめよー」なんて流れているが、こんなもの買って、カタルシスのひとつでも得られますかね。
買っても得しない商品は売れない。
これは簡単なことです。
ユーザーは、その商品をゲットすることで、何らかの得があると考えられない限り、買ったりしません。
一体これらの商品にどんな得があるというのでしょう。
(即売会で買うのは別。サインが手に入ったり、握手してもらったりしたら、少しはうれしいですからね。)
テレビはこういう売れない商品を二つの意味で垂れ流します。
ひとつは、業界とのつきあい。金(広告費)がからんでくれば、売れようが売れまいが、まるでたいこ持ちのように流し続けます。
二つめは、企画そのものが多少話題性があると思われる場合。
再婚者同士のデュエットなんてオイシイではありませんか。
オリンピックの各局別タイアップ曲もそうですね。
どれも、イマイチぴりっとしませんが、毎日死ぬ程かかっております。
テレビの客は只の客なのです。
話題性さえあれば見てくれます。
でも得した気分にならない限り、その音楽を買ったりしません。
当たり前のことですが、業界人ではわかっていない人も多いようです。
ま、先ほどのオリンピックタイアップ曲で、そこそこ売れるかなと思うの
はZARDぐらいですかね。
でも、いつものフレーズだし、私は食傷気味。
皆さんは何かありましたか。