音楽配信システムの最適化
今回は具体的にどういうシステムが音楽配信事業に適しているのかを考えてみる。
今迄の私の理論を箇条書きにしてみる。
1.音楽配信で最も重要なファクターは、システムの最適化である。
2.インターネットではコンテンツを軽くする技術の開発が前提。
3.音源配信の初期段階では、コンテンツのプライオリティはさほど高くない。
4.現状の音源配信事業は、フリーマーケットと同じ構造である。
5.インターネットはワン・トゥ・ワン・マーケティングが有効。マス・マーケティングはあまり通用しないと思った方がいい。
ほかにもあったかもしれないが、とりあえずこれらの理論の上に次のような音源配信システムを思い描いた。
◎アーチストとユーザーを直接結び付ける(マッチングする)システムであること。
◎両者のマッチングを促進する為、媒介としてミュージック・デザイナー(以下MD)を置く。
◎アーチストはMDを通じて発表の場を確保し、ユーザーもMDを介して好みのアーチスト(曲)をチョイスする。
◎音源配信会社は上記のMDを発掘養成することに主力を置く。
◎音源配信会社はウェブサイト及びサーバを通じてユーザーとコミットする。ユーザーがアーチストの曲をダウンロードする時、最適の環境を提供すること。
これもとりあえずここ迄にしておこう。
では各論点についてコメントを加えてみよう。
アーチストとユーザーのマッチング
インターネットを介してアーチストとユーザーがインタラクティブな関係を作り出すというのが未来の音楽産業のモデルである。
レコード会社も卸もレコード店もいらない。
パッケージ商品ではないから、余計な制作経費がいらない。
アーチストは自分の作った音楽を適正価格でユーザーに渡すことができる。それは従来の音楽産業とは違い、大幅に経費(人件費・中間マージン等)をカットできるため、価格は現在の10分の1になっても不思議ではない。
ユーザーは従来よりはるかに安い価格で音楽を手に入れることができる。それゆえ音楽市場は現行以上に活発化する。
産業構造は激変する。過渡的には音楽業界は既得権益を守る為に様々な防衛行動に走るだろう。ただ、アーチストがこれまでさほど優遇されていたわけではない為、新しいビジネスモデルに拒否感をもつことはないと予想される。
アーチストは構造の変化を拒否せず、ユーザーは歓迎する。問題は音楽業界の防衛行動に個別部分を侵されないことだろう。
彼らの武器は、著作隣接権。法的な対応が望まれる所以である。(この場合JASRACも又、既得権益の壁となチて対応してくるはず。)
媒介機能としてのミュージック・デザイナー。
媒介とは文字どおりメディアのことである。
従来、放送や新聞・雑誌などがメディアという認識だったが、これからはウェブサイトひとつひとつが強固なメディアとして機能し始める。
これらのウェブサイトをハンドリングしながら、アーチストとユーザーをマッチングさせるのが、私のいうミュージック・デザイナー(MD)である。
サイトへのトラフィックとしては、メールマガジンを活用する。
MDの資質はおのずと決まってくるということがお分かりいただけるだろう。
MDは中間業者ではない。
アドバイザーであり、プロデューサーであり、オピニオンリーダーである。情報発信能力・調整能力が問われる。
MDはウェブサイトそのもの
音楽配信会社はポータルサイトとして機能する。この場合、水平的なポータルサイトではなく、垂直的なポータルサイトとして構築される。
水平的なポータルサイトとはヤフーなどの総花的な情報を扱っているサイト。垂直的なポータルサイトとは例えばリッスンジャパン(音楽データベースを中心としたポータルサイト)などのように一つのジャンルを徹底的に網羅するサイトである。
※ヤフー・ジャパン:
http://www.yahoo.co.jp/ ※リッスン・ジャパン:
http://www.listen.co.jp/そのポータルサイトの一つのメニューとしてMDが存在する。(勿論複数)
アーチストはポータルサイトにアクセスすることによって、自分の発表の場をMDに見い出す。
自分の曲の売り込みは一通のメールでよい。
ユーザーはMDのセンスに自分のニーズを投影する。
ニーズが合えば、メルマガ(無料)の講読を申請し、最新の情報を受け取る。デザイン化したイメージはサイトに見に行けばいい。そこには詳しいデータベースが用意されており、興味のある曲は試聴もできる。
音源配信会社はMDの発掘養成を目指す。
そんなMDがどこにいるんだという疑問を聞く。どこにいるというよりも、どうやって発掘し、養成するかと聞いてほしい。
MDという概念は私の提起した新しい概念である。
私がMDです等という人がいるわけがない。
MDの要件は先ほど書いた。そういう要件にあてはまりそうな人をリストアップし、議論しながら作っていくしかない。
場合によっては専門学校などに養成講座を開いてもらうこともありうる。
どこかにいる人を連れてくればそれで終りと思わないでほしい。
音源配信会社はユーザーにサクサク感を与える。
配信会社の要諦は、楽しく軽く音楽をダウンロード(あるいはストリーミング)してもらうことである。
コンフリクトを起させてはならない。こんな邪魔クサイことは2度と嫌だと思わせてはならない。
又、来てもらわないといけない。今度はもっと楽しいものになっていなければならない。(まるでTDLかUSJ?)
そして、ユーザーが容易にアーチストに移行することができ、場合によってはMDとして機能することもあるというシステムを見せてあげなければならない。
インターネットの世界では、これらの垣根はそれほど高くない。
配信会社は過去の常識から自由であるべきだ。コンテンツにこだわる今の大多数の配信会社に未来は残念ながら見えないだろう。
00.8.14 Kunio Abe
(付録)
さて今回も付録を掲載します。前の続きなので載せざるを得ない。
でもカツオの1本釣りと業界の仕掛けを同じ構造と指摘した点は我ながらヒットですと自画自賛。
業界ワンポイント(その6)
アーチスト人気論「GLAY」の場合(第2回)
アーチスト人気論「GLAY」の場合の続きである。
ただ、この欄はあまり堅苦しいことを書く場所ではなかった。
あまり重い話はやめようと思うが、前回に魚釣りの仕掛けと業界の仕掛けをアナロジーしたので、その部分だけを今回は取り上げる。
音楽、とりわけポップスのジャンルでは人気はほとんど仕掛けによって作られる。
前回、GLAYは「ビジュアル系というブランド」の信仰者とそのフォロワーによって形成されたマーケットが強大になり、その支持を得る中でカリスマ化していった結果であるということを書いた。
ここで重要なことは、GLAYそのものではない。
ビジュアル系マーケットを育成し、強大化させた主体は誰か?
トータルな仕掛けを考えたのは誰か?それはどのような仕掛けだったのか?
実はこれにはピタっとした答がない。
だれも、マーケティングなどしていないからだ。
面白いことに、レコード業界にはまともなマーケティングなど存在しない。
その時々のムードに流されているというべきだろう。
ソニー系はまだ、色々と仮説を立てて試しているようだが、いかんせん、購買層は思うように動いてはくれない。
宇多田ヒカルを見のがすようでは、マーケティングをやっていますといっても信じられない。
出版を押さえていただけでも、立派かもしれないが。
ビジュアル系の仕掛けについては次回に回すことにして、一般的に仕掛けを語る時、私はカツオの一本釣りのエピソードを思い出す。
カツオの魚影を見つけた時、一斉に船から放水する。
そうすると、海面が波立ち、カツオはそこに餌があるものとどっと押しよせる。
どっと押し寄せる中で、カツオはすでに捕食モードに入ってしまい、もう何でもかんでも口に入れる。
後はそれを釣り上げるだけ。
上記が正しいかどうかは別にして、レコードの販売もこれと一緒なのである。
ファン層がいると思ったところに、水をまく。そうすると何ごとかと思って彼らは集まってくる。
集まれば集まる程、何かそれが絶対価値のように思えてファン層は主体性を失う。
ばかばかレコードを買う。大ヒットして、万々歳。
つまり、この水をまくというのが、業界の仕掛けなのである。どうやって水をまくか、それは次回に。