まだ4月の半ばというのに、初夏のような陽気が続く。
外出する時、どんな服装をすべきかちょっと困ってしまうほどだ。
下手に、夏のファッションでお出かけなどすると、夕方になってぐっと冷えたりしかねない。
近頃、年の所為か末端が冷えてしかたがない。
寒いのは身体に悪いのだ。
情けないなあ。
さて、そういうわけで町中でも薄着の女性が目立ちはじめた。
先日もある商店街を歩いて、今年はどんなファッションが女性達の間ではやるのか観察していたのだが、何故かその日はオバちゃんが多く、早い話ファッション以前の感想を持った。
オバちゃんて、どうしてこんなだらしないファッションしているのだろう?
オバちゃんのファッションといえば、第一に地味。
第二にルーズ、第三にアンバランス。
隣を歩いている若い女の子は、全くその反対。
小奇麗し、身体にフィットしているし、コーディネイトに思いきり気を使っているのがわかる。
でも、このおばちゃん達も、若い頃はきっとそうしていたに違いない。
何かの拍子に、スイッチが切り替わり、女の子はオバちゃんになってしまうのだ。
そのトリガーは何なのだろう?
太平洋戦争の終戦間近に、八丈島の守備隊に配属された人の手記を読んだことがある。
硫黄島が落ち、いよいよこちらに向かって米軍の艦隊が来襲するらしい。
玉砕の覚悟で、ギリギリの時を過ごしているうちに、運良くというか、終戦の詔勅が下りた。
虚脱感と、何とか生き延びたという意識で、呆然としていた筆者のそばを若い女の子達が「リンゴの歌」を口ずさみながら通り過ぎた。
そこで筆者が、心底驚いたという。
その女の子達のファッションにだ。
昨日までモンペ姿の地味な女の子だったのが、いきなり髪にパーマをあて、ピンクのブラウスに赤いスカートをはいて楽しそうに歌を歌っていたのだ。
何なんだ、こいつらは。
戦争に負け、これからどうしていいのかわからないはずなのに、一夜にしてモンペを脱ぎ捨て、何ごともなかったようにこんなハデな服装になるなんて・・・。
女とは、こうもしたたかなものなのか。
以上が、この人の手記に書かれていたおおよその内容である。
ふうん?、あの終戦のどさくさに、そんな風景があったのか?、しかも、歌っているのが「リンゴの歌」ねえ?。
話が大分迂回してしまった。
言いたいのは、ここで一夜にしてハデなファッションに変わった女性というのは、もう70代以上になったお婆さんである。
だから、今のお婆さんが、若い頃からそういう地味な趣味ではなかったということだ。
周りから、非難の目で見られるようなファッションでも、心の高揚感というか、解放感がそういう服装をさせたのだ。
筆者は言っていた。
一体、あの統制の時代に、そんな服をどこに隠していたのか?
さて、オバちゃんのファッションだ。
どうして若い女性がオバちゃんに変わって行くのか?
私が気づいたのは次の通り。
つまり、オバちゃんファッションの特徴は、「自分のラインを見せたくない」ということなのだ。
自分の胸のライン、腰のライン、尻のライン、足のライン。
だから、オバちゃんは、これらを知らず知らずのうちに隠そうとしてしまうのだ。
その逆に若い女の子達、よほどの肥満体の女の子でない限り、服装は基本的に身体のラインを強調するものになっている。
上着は、ほとんどウェストを絞っているのが普通だ。
オバちゃんは、シャツでもカーディガンでも、セーターでも寸胴のまま。
パンツもしかり。
若い子は、下着のラインが見えるほどピチピチにパンツをはく。
オバちゃんはラインの見えないパンタロン風(単なるズポン?)が多い。
スカートになると、若い子はミニだったり、スリットが入ったり、お尻がボンと突き出て、ウェストが大丈夫かというほどきつそうだったりする。
オバちゃん、ウェストゆるゆる。
ベルトを使わない、伸び縮み自由のゴムを使ったスカート。
そりゃ、緊張感もなけりゃ、色気もありまへんわなあ。
若い子はすごいです。
外に出る時は、化粧からして違います。
街へ出る為に、できるだけ自分のテンションを上げます。
化粧も、ファッションも、自分の小物類も、すべては自分のテンションをあげる為の小道具なのかと思うほど。
対して、オバちゃん。
外出するのに、態々テンションなんて上げません。
家にいる時も、外を出歩く時も殆ど同じ。
つまり、若い子からオバちゃんに変わるトリガーは、この外出時のテンションなのだということがわかります。
では、どちらが異常なのかというと、私は若い時だと指摘したいと思います。
女の子が、外出する度に、自分のテンションをあげるのが異常なのです。
では、何故テンションをあげるのか。
それは、やはり見られる存在だという自意識があるからでしょう。
男を引き付けないといけないという、本能的な緊張感があるからです。
巣の中では、のんべんだらり。
でも、一歩巣を出れば、雄を挑発したり、自分を守る為の警戒心を持ち続けたり、それはそれは大変なわけです。
だから、自分の巣を新たに確立し、生殖活動に勤しみはじめたら、女性は自分のテンションを下げはじめるのではないでしょうか。
で、トリガーは、巣を形成し、生殖活動に入ることによって、自己のテンションが下がるということだと私は考えたのですが、何かちょっと理屈っぽ過ぎますかね。
テンションが下がれば、身体のラインも崩れる。
ラインが崩れれば、それを隠す。
そして、オバちゃんのスタイルが完成する。
ま、こんなところではないかと考えながら、余計なお世話の私は商店街を闊歩していたというわけです。
オバさんでも、とてもオシャレな人がいます、そういう人はやはり外出時のテンションを維持できている人ですね、そうです、外を歩く時は、社会人としての常識的テンションは持ち続けてほしいものですね、安部邦雄