インターネット巨大掲示板「2ch」の話を嬉しそうにとりあげるのは、私のような世代の人間には何か気恥ずかしいものがあるのだが、今日はあまりに愉快だったので、ちょっとだけ。
7月6日から7日にかけてフジテレビが27時間特番をやったのは御存じだと思う。
その中で、砂浜をクリーンにしようという発案があり、湘南一帯をみんなでゴミ掃除しようと呼びかけた。
で、これを聞いた2ちゃんねらーが、フジテレビがゴミ掃除をテレビで始める前に、全部2ちゃんねらーだけでそのゴミをなくしてしまおうと呼びかけたのだ。
当日、テレビ局が集めようとした時には、既に湘南はクリーンになっていたという趣向。
つまり、テレビ局が一番ほしがる被写体を取り除いてしまおうというのだ。
困った彼等が、ひょっとしたらどこからゴミを持って来てばらまき、さもゴミを拾っているような映像をでっち上げるかもしれない、そうなったら、マスコミの偽善性がさらにあばかれる、なんて主張していた。
何故そんなことをしようと思ったかと言うと、フジテレビが「韓国ートルコ」戦で一方的に韓国を応援し、トルコが勝ったにもかかわらず、その表彰式すら映そうとしなかった、それに抗議したいからだということだった。
過激と呼ぶべきか、まあ、シャレでやるなら、それもありかな、と思っていた。
で、その呼び掛けに、本来ひきこもりの巣窟と言われていた、2ちゃんねらーが続々と湘南に集まって来たのだ。
反権力というか、アナーキーというか、世の中に背を向けていると思われがちの彼等が、何故か「ゴミ拾い」というきわめて地味な作業をするために各地から集まってくる。
掲示板は、そのための連絡で一杯になる。
どこへ行けばいいのか、何を持ってくればいいのか、気をつけることは何か、守るべきルールは?
司令塔なき、大ボランティア軍団が自然発生的に生まれた。
そして、ほぼ2日間かかって、見事に江ノ島一帯をゴミひとつない海岸にしてしまった。
整然とした行動というか、尊いボランティア精神というか。
結果フジテレビは予定していた、ゴミ拾いの映像はほとんど撮れず、そそくさと撤収して行ったわけである。
そして、彼等は口々に叫んでいた。
おれたちは、フジテレビに勝ったぜ、と。
色々と小競り合いはあったようだが、ほとんど後に残るような不祥事もなく、三々五々集まった彼等は、また三々五々家に帰って行った。
不思議な集団である。
ボランティアというのは、本来こういうものなのかもしれない、と思ったものである。
そういえば、阪神大震災の時のボランティアも、こんな気持ちで集まって来たはずだ。
この時にも、まだよちよち歩きだったインターネットがとても力を発揮したという話を聞いている。
今、関東大震災が起きたとしたら、今回の砂浜クリーン活動の経験はとても役に立つはずである。
フジテレビに対する抗議行動のために、江ノ島のゴミを完全に除去するなんてことを発案し、その趣旨に賛同した2chが数えきれないほどやってくるなんて、誰が想像できたであろう。
W杯のサポーターの不思議な出現の仕方にもちょっと驚いたものだが、今回の江ノ島クリーン・ボランティアの行為も私の記憶に残るものとなるであろう。
しかし、今回のフジテレビへの嫌がらせはマンガ的でとても面白かった。
悪意に満ちた善行という表現をした人もいたが、これは悪なのは善なのか、さてどう評価すべきなのだろうか。
まざまざと見せつけられたインターネットの潜在力を、マスコミ権力は今後どう扱えばよいのか?下手すると自分達の権威は吹っ飛びかねない、私が当事者だったら困るだろうなあ、安部邦雄