たいていの人が平静でいられなくなる必殺言葉がある。
それは、「あんた、この頃評判悪いよ。」という捨て台詞。
私も何回もこの言葉を交えて、相手の精神を揺さぶったことがある。
相手が、他の事で少しナーバスになっている時は尚更この言葉がこたえるようだ。
誰だって、人から認められたい、評価されたいと思っている。
しかし、そのための具体的なモノサシなんか存在しない。
どうしても、他人の言葉にそのモノサシを求めようとする。
しかも、自信満々であっても、人間どこか自分の価値判断を信頼出来ないものだ。
何かがうまく行かなくて、少しテンションが下がっている時に、「こんなこと、あまり言いたくないけど、あんた最近評判悪いよ。」なんて囁かれてごらん。
ズキーン!とこたえるものだよ。
別に、具体的に何かあったわけでもないのに、必死になって評判悪くなった理由を探し始めるはずだから。
落語にこんなのがある。
ある商家の丁稚さんが、出入りの職人を呼びに行った。
「旦那さんが怒っているよ」
「え?何で?理由は?」
「知らないけど、すぐに呼んでこいと、えらく怒っているよ。」
こう言われていると、どうして怒られるのか、一生懸命考える。
で、あれのことか、これのことか、と見当をつけながら旦那さんの前に行き、先に謝ってしまえと、自分のやったミスを色々と言って、しきりに謝る。
次々出てくるとんでもない所業にあきれる旦那さん。
しかし、旦那さんは別に、職人のミスを怒っていたわけではないのだ。
単純に、呼びにやった丁稚の態度の悪さを怒っていたのだ。
確かに旦那は怒っていたが、それと職人を呼んだこととは何の関係もない。
でも、人は弱いものだ。
怒っていると言われると、当然自分が怒られていると思ってしまう。
あれで怒られているのか、これで怒られているのか、考えなくともイイのに、自分で勝手に妄想し、自分のテンションをどんどん下げてしまう。
幽霊の正体見たり枯れ尾花、とかいうのも同じような人間の心理を表現しているのだろう。
「あんた、最近評判悪いよ。」
たった、この一言で、人は自分が委縮してしまうのを感じるはずだ。
昨日の話の続きだが、私は何度もこれに近い言葉をサラリーマン時代、上司や先輩に言われ続けて来たような気がする。
おそらく、負けじと私も毒のある言葉で言い返していたはずだが、それでも相手の投げ付ける鋭利な言葉は、私を徐々に傷つけていたのは間違いなかった。
お前のやっていることは独善だ。会社はおまえなんか評価していない。
私は、誰からも批判されない生き方をしていると信じていた。
しかし、実際は違っていた。
批判の嵐、非難の的。
仲間はずれ、何とか委員なんてポストには一度も任命されず。
みんなは、そのポストについて楽しそうに会合している。
私は、一度たりとも、そんな会合に出たことはなかった。
ま、いいか。
おれはディレクターだから。
ディレクターは孤独なのだ。
仕事をすればするほど、同僚達との距離は日々遠くなって行った。
鬱だなあと思いながら、私の青春は過ぎて行った。(つづく)
こういう話題は、書きながらテンションだだ下がり、反省の意味をこめて又明日も同じような話題を、安部邦雄