昨日のパラオの現地ガイドの話だが、何故彼が「山田・中村」を「山田と中村さん」と言うのが少しわかった。
つまり、彼はその日のツアー参加者の書類を見ていたのである。
書類には「Yamada & Nakamura SAMA(様)」とでも書かれていたのだろう。
これをそのまま日本語にすると「山田と中村さま(orさん)」になるわけだ。
当然、SAMA(様)が二人にかかっているのは日本人にとっては自明だが、現地ガイドにとっては、そんなことは知らない。
きっと、前の人には様はつけないで、後ろの人にだけ様をつけるのだと解釈したに違いない。
しかし、一度でもガイドの発するその呼び方を聞いてごらん。
違和感よりも、こいつら失礼なやつだと絶対に思うから。
敬語の間違いは、不愉快な気分を伴うから本当に気をつけないといけない。
ところで、先日あるワイドショーで、もっと失礼な場面を目撃した。
芸能人がファックスを使って、マスコミに情報を流すことが増えて来たという話題だった。
その例として、デビ夫人のファックスを紹介していたのだが、アナウンサーが末尾の「早々」を何故か「はやばや」と読んだ。
ついでに彼は嘲りを交えてこう言った。
これは、草々のつもりで間違えたものと思われます。
ワープロで文章を書くと、こういう間違いが多いのです。
やはり、自筆で書くべきではないでしょうか。
私は『?』と思った。
ワープロ云々は私も自戒しないといけないなと思うが、「早々」を「はやばや」と読むのは、この場合おかしくないか?
手紙の末尾に「早々」と書いてあるのは何度か見ている。
別に「そうそう」は「草々」でも「早々」でも「匆々」でもいいんじゃなかった?
でも、アナウンサーは勝ち誇ったように言い、コメンテーターは誰もその誤りを指摘しない。
きっと番組のディレクターも構成作家もプロデューサーも、みんなこれをデビ夫人のワープロ打ち間違いだと信じて疑わなかったようだ。
しかも、アナウンサーにわざわざ「はやばや」なんて読ませる演出なんかまで加えて。
こういった敬語とかしきたりの類については、放送マンたるもの、もっと自戒して慎重に扱わないと、こんな取り返しのつかないミスをおかしかねない。
それでもマスコミか、恥を知れ!という問い合わせも殺到したことであろう。
如何に安易にワイドショーが作られているか、再認識させられた次第である。
ついでに、手紙に使う言葉のワンポイント知識を。
最初の拝啓とか謹啓とかは、次に時候の挨拶とかの儀礼的な表現が続く時に使う。
拝啓は、拝して啓上させていただきますという敬語。
謹啓は、謹んで啓上ということ。
啓上は、一筆啓上仕り候、で有名。申し上げるという意味だ。
末尾の敬具は、敬いて申し上げると言う意味。
敬白も同じ。白は「まおす=もうす」という意味。祝詞によく出てくる。
草々は匆々とも早々とも書く。
まとまりませんが、すみませんという意味らしい。
普通、前略と対応して書き、前も略するぐらいとっちらかしております、申し訳ございません、というニュアンスだろう。
女性が文末に使う「かしこ(或いはかしく)」。
「釣り針のような<かしく>で人を釣り」という川柳がある。
いわゆる遊女がひらがなで男に文を送ったさまがよく表現されている。
で、この<かしこ>、決して賢いという意味ではない。
「かしこみてまおす」と祝詞で最後に出てくる「かしこ」である。
「畏こ」、すなわち畏れ多いことではございますが、申し上げさせていただきます、という意味。
以上、ワンポイント豆知識でした。
間違ってたらごめんね。
テレビでワイドショーが許せないのは、その無責任な暴露主義に対してではない、報道マンとしての取材の緻密さが足りなすぎるということだ、自分が間違っていることにも気づかない鈍感さが余りにも情けない、安部邦雄