これは実話なのだが、昔、我が家に訪れた女性がいた。
少し気分がすぐれないので休ませてほしいという。
まだ、人情が色濃く残っていた頃で、何の疑いもなくその人を内に入れた。
その人はトイレを貸してくれといって、厠に入ったのだが、それきり出て来ない。
不審に思って、「大丈夫ですか?」と問いかけると、何となくただならぬ様子。
そのうち、自分の頭を壁にガンガンぶち当てているような音がする。
さあ、大変、狐がついた!と家中大騒ぎ。
そう、この頃は、不審な行動をする人に対して、たいてい狐や狸が憑いていると言ったそうな。
「○○のおばちゃん、呼んどいで!」
○○のおばちゃんというのは、昔は町内に一人はいたという、お払いのおばちゃんである。
カッコよく言うと、祈祷師。
その頃は、お払い屋さんと呼んでいた。
その人が飛んで来て、白い幣を振り、一心にお払いをして何とかその場はおさまったと言う。
あの時は、本当に怖かった、らしい。
実は、私は、まだ赤ん坊の頃で、何も覚えていない。
だから、これが本当に狐憑き(そんなものがあるかどうかは知らんが)だったのか、単なる癲癇症状だったのかは何とも言えない。
で、本日の結論。
昔は、私達のそばには、狐憑きの人もいれば、お払いのおばちゃんも居たと言うこと。
今では、近くにそんな人いやしない。
いきなり我が家に狐憑きの人が来たら、一体どうしたらいいのだろう。
占い師はいても祈祷師はいない。
こんなことで、街の治安は守れるのか?
怖いのは北朝鮮のテポドンばかりではないぞ。
つまり、昔は民間に防衛機能があったわけで、今のように警察や自衛隊がなければ防備できないというような脆弱な構造ではなかったということかな、そう言えば、昔は厄払いを生業にしていた人も一杯居たような、安部邦雄