私の友人の弟さん。
仕事でずっとサウジアラビアにいたのだが、休暇がとれたので日本に帰ってくるという。
それを聞いた両親が、不安げに答えたという。
帰って来るのは嬉しいけど、今はやめてほしい。
戸惑う弟さん。
サウジアラビアから日本に帰ってくるからといって何が問題なのか。
で、私の友人、つまり兄に連絡が入る。
どうしても日本に帰りたい。
兄貴の家に泊めてくれ。
アラビアから帰って来ることのどこが問題なのか。
弟さんは全くわからないと言う。
日本にいるものにとっては、そんな危ないところから日本に帰って来るのはやめて、という心境らしい。
SARSだって、いつ日本に入ってくるかもわからない。
親御さんからすると、そんな地域から帰って来た息子を、近所の人が迷惑がりはしないかと不安なのだそうだ。
ちょっと、考えさせられた。
日本人がよく使う、世間体というか、「人に迷惑をかけてはいけない」という不文律というか。
サウジアラビアとSARSと何の関係があるのか、と思う人は世界をよく認識した人だ。
でも、ほとんどの日本人は、アラビアも香港もインドネシアもみんな同じなのだ。
そんなところから帰って来る連中を簡単に受け入れることはできない、という意識。
そう言えば、先日ある人が上海は北京に近いから危ないに決まっていると真顔でいった。
そんなことを言えばトロントはピッツバーグとかクリーブランドに近いが、クリーブランドがヤバいなんて言う人はいないではないかと私は思うのだが、中国は違うらしい。
北京が危なくて、上海もそこに近いから危ないなんて言うのなら、トロントに近いニューヨークも危なくはないのか、と皮肉まじりに言ってみた。
世はどこも偏見に満ちている。
世界との距離感をつかめない日本人の多さにも愕然とする私であった。
早い話、日本は平和ぼけが今も続いているということだ、安部邦雄