マーケティングで、よく差別化なんて言葉を使う。
この商品が、他の類似した商品とどこが違うかをはっきりさせること、それが差別化である。
一言でいうと、そこにしかないものこそが、差別化された商品なのだということだ。
そんなものなら、他でも買える、手に入ると思われたものはなかなか買ってもらえない。
私達の仕事で言うと、番組を制作をするにしても、他の会社ではできない、他のプロデューサー、ディレクターではできない、何かを持っていないと簡単に他のものに替えられてしまうのだ。
ああいう番組は、あそこしか作れない、他に頼んでも無理だと思われるようでなければ、制作会社としては失格である。
差別化されるモノの中で、値段を下げることによって勝負しようというのもある。
合理化することによって、質を下げずに制作費を下げるならまだいい。
これは、正しい値下げである。
しかし、ほとんどのところは、無理して制作費を下げる。
仕事がほしいばかりに、他所よりも安い値段で受注をはかろうとする。
すると、どうなるか。
それだけの質でしかなくなるのだ。
やっつけ仕事、外側はまともでも、中味はボロボロ。
欠陥住宅そのものの番組になる。
そんな仕事を、私も嫌というほど見て来た。
値段を下げて、競争するなら、質を下げないという自信がなければだめだ。
ヒットアンドラン、つまり、作って逃げるみたいな商売で評判がよくなるわけがないのである。
先日も、そんな制作会社が一社、事務所を閉じた。
しがらみがあって、仕事を回していたこともあった会社だが、そのずさんさに何度頭に来たかしれないところだった。
大事なことは、そこにしかないものを持っているかどうかだ。
そこにしかなければ、値段を下げる必要は全くなくなる。
それでも値段を下げろと言われて、質を落とすことしか考えられなければ、最初から断った方が後々よかったりする。
このあたりは、なかなか難しいが、プロなら質を下げることは自殺行為であることを知るべきだろう。
さて、あなたが毎日作っているもの、それは本当に「そこにしかないもの」だろうか。
どこにでもあるものなら、誰かに取られても仕方がない。
その価値を正当に評価されないとしても、評価されないのは結局自分の力のなさとしか言い様がないではないか。
我が身の不徳のいたすところ、である。
ただ、そこにしかないもの、なんて最近はなかなか見当たらない。
昔は、商品が少なかったから、ちょっと考えればいくらでもあったが、今はありすぎだしねえ。
前ほど楽ではないことに、ほとんどの会社が甘えているのかもしれない。
でも、おれたちの作るものは違うのだ!そういう矜持を持って、皆さんも日々精励されることを願ってやみません。
昔はビデオもなく、ビートルズを見ようと思えば映画館に行くしかなかった、商品を手に入れようと思えば、それを売っている数少ない店に行くしかなかった、今はユビキタス何とかの世界、差別化がしにくい時代だ、安部邦雄