銭湯の初風呂というと、今日1月2日と昔から相場が決まっていた。
普段11時ぐらいまでしか営業しない風呂屋が、12月31日は深夜の2時まで営業する。
大晦日、ギリギリまで働いていた人が、すべての仕度を終えて仕舞風呂に行く。
そんな風習の名残りである。
私の家も商売をやっていたから、お客さんは12時をすぎても訪れていた。
1時ぐらいにようやく店仕舞。
父はそれから私たちを連れて銭湯に。
そんな慣習に全く違和感を持たずに私は生きてきた。
今は、大晦日でも0時過ぎて風呂屋に行くなんて事はしなくなったが、どこか懐かしい年越しの風景だ。
風呂屋さんは、それから元日の朝まで風呂場の掃除などをして、やっと正月の準備にとりかかるとか聞いたことがある。
実に大変な商売である。
で、2日は早速初風呂。
これが、何と朝の5時ぐらいから開けるのだ。
別名、朝風呂と称していた。
そして、昼の2時ぐらいで店を閉める。
私にとっての初風呂というのは、朝御飯前のとても眠い風呂だった。
朝の8時ぐらいに起こされて、やはり親父といっしょに風呂に行く。
太陽の光の清々しさは例え様もないほどだったが、子供には眠気と背中合わせの風呂ではあった。
でも、風情があったなあ。
懐かしいなあ。
心の中には、今もたくさんの正月風景が残っている。
年を越すと、そこには非日常的空間が広がっていたのだ。
今は、どうなのだろう。
子供達は、そこに日常を超えた空間を感じているのだろうか。
三が日で、2日が朝風呂だけ営業、後は休みというのが普通だった銭湯。
正月はだから、2日しか風呂に入れないという強迫観念もあった。
どこの家にも内風呂がある今日、そんな観念はもはや誰の心にもかすめることはないだろう。
昔がまた一つ、ひっそりと消えて行こうとしている。
別にそれを惜しむわけではないが、自分の人生を語るひとつとして、ここに書き留めておこうと思った次第である。
銭湯が消える日というのは来るのだろうか、今どれだけの人が銭湯の存続を望んでいるのだろう、それは私がこの世から消えたあとか、それとも・・安部邦雄