白木さんの話を今日も書く。
白木さんは、とても迫力のある人だった。
どちらかというと痩せ形タイプだったが、怒ると周囲を威圧するだけの力があった。
事務所の中でも、気に入らないことがあると怒鳴りちらしていた。
怒られた方は、普段どれだけ偉そうにしている連中も何も言い返せず、黙りこくっていた。
何しろ、白木さん、オレは朝日新聞の人間だ、文句あるかというタイプの人。
その人が、出向して放送局の中枢を握っていたのだ。
そりゃ、簡単に言い返すなんてこと、会社の連中にできるはずがない。
私に言いたいことを言う管理職が、白木さんには理不尽なことを言われても御無理ごもっとも。
ちょっとぐらい言い返せよ、そうしたらたまにはあんたの言うことも聞いてやるのに、とよく思ったものだ。
迫力といえば、ある料亭での出来事を思い出した。
何かの会合があったのだが、料亭側の不手際で何かが用意されていなかった。
しばらくして、遅れて現れた白木さん、その場を見た途端に大激怒!
女将を呼べ!
先にきていたものが穏便に処理しようとしているのに、白木さん、これはどういうことだ!どうおとしまえをつけるのだ!と大声を出して罵る。
女将は真っ青になり、平身低頭、申し訳ございません!の一辺倒。
許さん、絶対に許さん!
申し訳ございません、申し訳ございません、
しばらくすると、一体、白木さん、何を許せないかもわからなくなってきた。
もう、ええ、あっち行っとれ!
本当、何が原因だったのかも忘れてしまった私だが、その時の女将のお尻の方が肩の線より遥かに上にあった謝り方だけは忘れられない。
こんな人間、ある意味ではとてもイヤな奴だが、そういう迫力を出せるということは、それだけで評価に値するなあと感心したものだった。
普段から、自分の中にこのパワーを温存していなければ、いきなりあんな迫力などでるわけはない。
気、と言い換えてもいい。
相手を気で圧倒する。
それは、日常的に自分をそういう場に置いているからこそできるのだろう。
ヘタレではこんな芸当はできない。
例の石原大臣なんて、迫力のないこと。
頭だけで生きているから、あんな気弱な態度になるのだ。
記者相手に、逆切れはできても、相手を圧倒するような迫力はどこにもない。
読売新聞の渡辺氏が「おれを何だと思っているんだ!」と一括した場面がニュースで流れていたが、やはり、あの人もそういう人間の迫力を培った経験があるからだろう。
笑福亭鶴瓶師匠が笑いながら「何やねん、やんねんやったら、いつでもやったるで」と凄むところがあるが、やっぱりああいう凄みを出せるところが、経験者だなあと思う次第。
私もどちらかというと温厚な方だが、この「やんねんやったら、いつでもやったるで」という気持ちは常にある。
そうやって、自分を鼓舞しているともいえるが、肝心な時に自分が後ろによってしまったら、もうそれだけで精神的に負けてしまう。
いざという時に、相手に迫力で負けてはいけない、何かこれも白木さんの置き土産かな。
ただ、君子危うきに近寄らずともいうので、こちらから喧嘩しにいくようなことはしてはいけない、白木さんは相手が強ければ絶対に喧嘩を売るようなことしなかった、それが必勝の極意らしい、安部邦雄