飯田久彦氏(現テイチク社長、言わずとしれた元アイドル歌手)があるインタビューでこんなことを言っていた。
昔はレコードは10万枚売れたら、100万人の人が口ずさんだ。今は150万枚売れても、150万人しか聞いていない。
なかなかの名言である。
結局、昔は音楽は共有されていたということなのだろう。
1人がレコードを買えば、何人かで聞く。
ステレオだって、誰の家にあるというわけでもない。
人はラジオやテレビからしか、音楽を聞けなかった。
それでも、情報を口コミで交換したり、レコードを交換したり、町ののど自慢大会で誰かが歌ったりして、いい曲は人口に膾炙(かいしゃ)した。
1枚のレコードが、人々の中に回転して、ヒット曲が生まれて行ったのである。
だから、出た途端にヒットするなんてことはありえなかった。
しかし、ヒットしたら、その段階で音楽ファンは誰でもその曲を知っていたわけだ。
10万枚売れれば、100万人がその曲を知っているというのは、まさしくその構造があればこそである。
対して、今のヒット曲。
売り出した時で、ヒットかヒットでないかが判断される。
つまり、いい曲とか悪い曲とかが人々の判断される前に、ヒット曲扱いされてしまうのだ。
だから、ほとんどの人がその曲を知る機会がない。
ヒットしているという事実は知識としてあっても、その曲の中味を知らないという事態になる。
私なんか、まさしくこれである。
曲名は、一応業界人だから知っている。
しかし、どんな曲だったか歌ってみろと言われても、ほとんど歌えない。
今日のデイリー1位の曲、スピッツの「スターゲイザー」。
既に13万枚売れている。
はい、この曲歌える人ー!
知らないよねえ。
一体、どこに行けばこの曲聞けるの?
ほとんどの人が知らない曲を、ヒット曲といつから呼ぶようになったのか。
レコード会社からすると、ヒット曲にランクされないと誰も買ってくれないという構造になっているのだろう。
つまり、ヒットしているという情報を流さない限り、ヒット曲にはならないという、変なパラドックスがここには存在しているのだ。
だから、ヒット曲は、ヒット曲でない場合も多いということだ。
売れた枚数が50万を越えようと、100万を越えようと、ほとんどの人が知らない曲はヒット曲とは呼べないのである。
レコード業界は、このあたりを少し整理し直さないと、増々ジリ貧になるだけではないだろうか。
ヒット曲の定義を変えた方がいい。
無理矢理ヒット曲のふりをすればするほど、客が逃げて行く。
違いますか?
今は、昔と違って音楽のメディア(プレイヤー)をひとりひとりが所有する時代。
皆で、一つのレコードを集団で聞くなんて時代ではない。
なのに、頭の中は依然昔のまま。
レコードが売れないのは、違法コピーをする人間が増えているからだ、なんて本気でそんなこと思っているの?
ビジネスモデルをそろそろ考え直す時期だと皆が言っているのに、全く対応出来ないのが悲しすぎる。
ま、現場の人間は、みんなわかっていることだろうけど。
前も書いたが、紙芝居をただ見する子供を邪険に扱ってはいけないということだ、お金があればその子供達も金を払って駄菓子を買ってくれるのだ、その純粋な気持ちを摘んではならない、安部邦雄