何ものかに、毀損されてしまったテナーサックス。
めろめろになってしまった運動会のドリル。
私は、自分の管理不行届きもあり、誰を責める気にもならなかった。
又、そのことを自分から顧問の先生に言う気にもならかった。
先生が聞いてくれば、私が壊したわけではなく、誰かが不注意で触ったのだろうと伝えたはずだ。
テナーサックスは、それほど光沢があり、輝いて見えていたはずだ。
何しろ、私がテナーサックスを吹きたいと思ったのは、そのまぶしさゆえだったのだから。
私がそう思うほどだから、触りたくなる後輩はいたに違いない。
そして、不用意に持ち上げ、バランスを崩して落としたのだろうと、私は推測した。
テナーサックスは意外と重い。
持ち損ねて落としても不思議はない。
顧問に破損したとだけ私は言った。
顧問はだまってそれを受け取り、修理に出さないといけないな、と答えた。
失礼しますと私はその部屋を出た。
一言も弁解せず、又、自分の気持ちを伝えもしなかった。
私は、顧問に不信感を感じていた。
2年になって、顧問になった先生だ。
普段は音楽の教師。
ちょっと野心家という人だった。
そして、この先生は顧問になったとたん、ブラスバンド部をマーチオンリーではなく、軽音楽部みたいなクラブに変えようとしていた。
私は、マーチが大好きだった。
変なクラシックは、興味がなかった。
にもかかわらず、今日からは今迄と違う音楽をやると顧問は宣言した。
私は、心の中で激しく抵抗しはじめていたのだ。
ブラスバンドは、マーチをやるからカッコイイのだ、クラシックなんか、弦楽器となんかと合奏したくない、その時の私の違和感をどう言葉にすればいいのだろうか、安部邦雄