見渡せば 花ももみじも なかりけり
浦の苫屋の 秋の夕暮れ
藤原定家の歌だ。
寒々として生気さえ霞んでしまった村の風景。
海辺の苫葺きの小屋があるだけの寂しい秋である。
新潟中越地震で置き去りにされた集落にもどこか通じる感慨である。
だが、確かに私の中の心象風景として、この歌の世界はある。
好きな歌をあげろと言われれば、間違いなくこの歌をいの一番に持出すだろう。
何てさびしい秋、何て寄る辺ない私の心。
唱歌に「里の秋」というのがある。
静かな静かな里の秋 お背戸に木の実の落ちる夜は・・
背戸というのは、家の裏口のことを指すのだが、何となく浦の苫屋のイメージと重なる。
シーン。
シーン。
カターン。
シーン。
他には何も聞こえない。
又、死出の旅路を思ってみた。
そんな 秋の夜長の 孤愁あわれ
定家の歌は三夕の一つ、西行の「心なき 身にもあわれは 知られけり 鴫立つ沢の 秋の夕暮れ」もその一つだが、こちらはあまり感動しないなあ、安部邦雄