試験放送中のデジタルラジオ 周波数帯ほぼ固まる
2008年5月23日 朝刊
完全デジタル移行後のマルチメディア放送の在り方に関する報告書案が、今週開かれた総務省の懇談会に示され、現在試験放送が行われているデジタルラジオの周波数帯を九〇−一〇八メガヘルツにすることが濃厚となった。高音質や動画データ配信が売りのデジタルラジオは二〇一一年の本放送開始に向けて現在試験放送が行われているが、現状はどうなっているのか探ってみた。 (安食美智子)
「帯域が明確に示されたことはありがたい。ようやく“土地”が見つかった」
ラジオ局や通信事業者、商社などで〇一年に設立された「デジタルラジオ推進協会」(DRP)の小川和之専務理事は、こう胸をなで下ろした。どの周波数帯が割り当てられるか、これまでも話は出ていたが、報告書案に盛り込まれたことでほぼ“固まった”といえるからだ。
デジタルラジオは現在、首都圏と近畿圏の計千百二十世帯を対象に実用化試験放送が行われている。アナログ放送の7チャンネルを使用し、東京地区では総合二・四キロワット、近畿圏では総合二百四十ワットの出力で放送中。放送局も、クラシック専門局「OTTAVA」(オッターヴァ)、ラブソング専門局「Suono Dolce」(スォーノ・ドルチェ)、「UNIQue the RADIO」(ユニーク・ザ・レディオ)など、既存ラジオ局の肝いりで相次いで開局している。
このうち、TBSラジオが立ち上げた「OTTAVA」は七月から、気鋭の音楽評論家がクラシック音楽シーンの最前線を紹介する番組「OTTAVA amoroso」(月−金曜午後6時)を、インターFMにも“提供”。従来のアナログラジオ受信機でも聴けるようにする。同一エリア内で放送局の垣根を越える、業界初の試みだ。
インターFMでは月−金曜午前零時に放送する。営業窓口はTBSラジオ。番組本体とCMを一体にして放送するという。TBSラジオの三村孝成・デジタル推進部長は「広告主が喜ぶ場所にコンテンツを出していきたい」と説明している。
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こうした新たな取り組みの一方、波風も立っている。
実用化試験放送の免許は、放送局ではなくDRPが持っている。デジタルラジオではインターネットのように有料で「着信メロディー」の配信や各種データを提供することも可能だが、現在DRPが取得している免許では課金はできない。
新しいビジネスチャンスと位置づけるTOKYO FMは、課金が可能な別の免許の取り直しを求め、「昨年六月のDRP総会で、課金がなければ放送をやめるとDRPに通告した」(同社の藤勝之・デジタルラジオ事業本部長)。その言葉通り、放送を行う「正会員A」を辞め、放送を行わない「正会員B」としての再入会を求める内容証明をDRPに送付。試験放送を四月から休止している。
これに対し、DRP側は、いったん現在の免許を返上すると、課金が可能な別の免許を取れる確証がないため、免許の取り直しには慎重な姿勢を堅持。退会の事前通告を定めた内規をもとに、「TOKYO FMは今も正会員A」との見解も示す。「突然の放送休止はユーザーに対し不誠実」とDRPの小川専務理事。
本放送後の有料・無料の考え方について、総務省の懇談会に示された報告書案では、原則として事業者任せとしつつも、「ほとんどすべてが有料となると、普及・発展を阻害する恐れがある」とも指摘。明確なビジョンを示すまでには至らなかった。デジタルラジオに対する考え方の違いから生じたといえるこの騒動。両者とも、協議が決裂すれば法的措置も辞さない構えで、着地点は見えていない。
<デジタルラジオ> 2011年に地上波テレビの完全デジタル化で生じる空き周波数帯の跡地利用としてスタート。専用の受信機が必要で、携帯電話一体型の受信機や、パソコンのUSB接続型チューナーがある。DRPでは現在、車載機の本格的な準備にも乗り出している。