会社のそばに駄菓子屋のような古びたパン屋がある。
午後には、ケースにはパンの影も形もない。それでも店は開けている。
変なパン屋である。
ある時、日本テレビの「途中下車」で取り上げられているのを見て、初めてこのパン屋の謎がわかった。
お店は老夫婦で細々とやっていて、朝早くお父さんが毎日同じだけの量のパンを焼くという。
大量に焼くのはもう無理ということで、その量が売れれば、パンはおしまい。後は、飲料水とか箱物を売るだけで、それゆえ、客は誰もいないというわけだ。
毎日食べられればいい、そんな気持ちでやっているとか。
跡継ぎもいないし、パン同様オヤジさんが亡くなったら、それで終わりのようである。
ちなみに、このパン屋さん、味は相当いいそうで、午前中であらかた売り切れになるとか。
おかげで、私は一度も食べたことがない。
そういえば、豆腐屋さんもパン屋さんと一緒だなあと思う。
暗い時間から起きて、仕込み開始。製品が出来た時は朝で、それを午後ぐらいまでに売り切る。
仕入れは原材料だけだから、極めて効率的な商売だが、近頃は大量生産に押されてか、パン屋も豆腐屋もよほど個性を打ち出せなければ、衰退の一途なのだとか。
そりゃ、そうだろうなあ。近くの人気のあるパン屋さんでも跡取りがいないんだから。
さて、タイトルの「パン屋へ行き」だが、昔の人気漫才師、上方柳次・柳太師匠のネタで使われた言葉だ。
寿司職人に修業に行こうとする柳太師匠を柳次師匠が「あんたには無理や、パン屋へ行き。」と突っ込む。
これが、その後も何回も繰りかえされる。
パン屋は楽やから、阿呆でもできる、寿司職人は大変や、だから「パン屋へ行き!」となる。
昔はパン屋って、楽だったんでしょうなあ。
でも、今は商品並べといたら、誰ぞが買ってくれる時代やのうなったいうことですわなあ。
えらいこってすわ、ほんま、どないしたらよろしいんでっしゃろなあ。
すたれゆく質屋の息子、安部邦雄