ニュース時評をしようというのではない。
ニュースを読む夢の話である。
安部邦雄全仕事でもお分かりの通り、私は大阪時代はニュース・アナウンサーでもあった。
決して、上手なアナウンサーではなかったが、聞いてはおれないというアナウンスメントでもなかったはず。
ちょっとプライドもあった。ニュースはどう読むべきかというプロ意識もあったし、家に帰ると新聞の記事を一通りニュース口調で読むという練習も欠かさなかった。
誰も知らなかっただろうけど本当のことだ。
ニュースを読まなくなって13年経つ。
ところが、今になってもニュースを読む夢が、適当な周期で現われるのだ。
もちろん、ちゃんと読む夢ならそれほど意識もしない。
毎回毎回、ニュースが満足に読めないのだ。
ある時は、ニュース原稿がない。(いきなり消えてしまう。)あっても、原稿がバラバラで順番がわからない。
ある時は、提供クレジットがない。(提供クレジットて長いのである。例えば「どなたにも喜ばれる美味しいお酒、清酒月桂冠がお送りする・・・」)
ある時は、まともに声が出て来ない。
もう、ありとあらゆるシチュエーションが趣向を変えて出てくるのだ。
悪夢である。寝汗をかく。目覚めが悪い。
近頃は、これはひょっとしたら夢ではないかという自分が毎回出てくるようになったので少し楽になったが、今度は、いや今回は夢じゃないよなんて言う自分が出てくるようになった。
夢判断はしたことがないが、おそらく面白い結果が出そうである。
こんな夢を見るのだから、現実にそういう経験があったのだろうと思われるかもしれないが、これが一度もない。
私はそんな慌て者ではない。たいてい用意周到、めったなことでパニックには陥らない。
自分がパニックに陥りやすいタイプであると認識していたから、どんな場合でもセーフガードを作っていた。
そう、生意気言うと、これがプロなのだ。
なのに、何故そんな夢が?つまり、パニックに陥るのではないかという恐れが、そういうセーフガードをはっていたのだといえる。
夢の中ではその恐怖がそのまま出てくる。
だから、夢の中でパニックになるのだ。困ったものだ。
今まで、苦しかったことが何度かある。
一度は歯痛。歯と歯が少しでもあたると激痛が走るようなことがあったときのニュース。
辛いったらない。痛いとは言えないし、活舌が悪くなってもいけない。
スタジオまで急遽走って入らなければいけなかった時。
呼吸が乱れてハアハア言っている。
瞬時に呼吸を整え、何ごともなかったようにニュースを読む。必死になって貧乏揺すりをして、心臓の鼓動と身体のリズムを合わせ、丹田(わかります?)に空気を落とし神経を集中させる。
プロはプロで色々あるわけです。
熱があるとか、咽が痛いとか、肩が凝るとかなんか、そんなものは苦労でも何でもない。
途中で、掃除のオバさんがスタジオに入って来ようと、プロは何とも思わない。
テロリストが来ようが、反乱軍が占領に来ようが、おそらくニュースは読み続けるだろう。
アナウンサーってそういう性(さが)なのです。健気なお仕事だと思いませんか?
でもアナウンサーは好きじゃない、安部邦雄