東京新聞の運勢欄が好きである。
干支で今日の運勢を占っているのだが、その漠然とした表現が何とも味わい深いのである。
手許にある新聞のとら年を見てみよう。(私は庚の寅です。)
「高山千岳は広長舌を振るうといった象。人々なんじを喜び迎える」のだそうだ。
何だか、昔の田中佐和さんの御託宣みたいだが、色んな想像ができて楽しいのである。
あ、田中佐和さんというのは、昔「ただいま恋愛中」というテレビ番組で恋人同士の未来を占うと称して、最後にとんでもないことを言って、二人を奈落の底に突き落としていた女性霊感占い師のこと。
最初にとてもいことを言う。「二人が桜の下で仲良く食事をしているのが見えます。」
次にとんでもないことが起きる。「が、その桜の木に、毛虫が異常発生し、風が吹いて一斉に二人の上に落ちてくるのが見えます。」
そしてこう結ぶ。「今は、幸せな二人だが、ちょっと風向きが変わると、不幸が一杯襲って来ます。そんな不幸に見舞われないうちに、早く別れることですね。」
大阪アクセントのゆったりとしたご託宣に客席は大拍手。二人は思いきり頭をガーンと叩かれる。
司会者(笑福亭仁鶴師匠)が二人に「どうします?」と下から聞く。
たいてい二人の答えは「別れないように頑張ります」だった。
そりゃそうだろう。なら、別れますなんていったら、喧嘩になるに決まっている。ここは、まあ、とりあえずそういっておこうということだろう。
田中佐和さんはとても面白かった。出てくる恋人と言う恋人を色んなイメージで奈落の底に落とし続けたのだから、すごいといえばすごい。
5人に1人ぐらいは、それでも「これからも努力すれば幸せな家庭が築けるでしょう」などというプラスのご託宣をすることもあった。
二人はほっと胸をなでおろすが、客席は「なーんだ」という反応。
他人の不幸は蜜の味というが、本当にそういうものなんだなと感じた次第。
東京新聞運勢欄の話がえらいところへ飛んでしまった。
さて、先ほどのイマイチ分かりにくい運勢を読んで、私は色々と考えるのだ。
ええと、つまり今日の俺は幸せなんやな、ま、それはとてもええこっちゃ。(これで考えてるの?)
ついでに、ね年も見ておこう。
「賢人と称せられるものに目を開いて外を見る。内観のない愚人なり」
何なんでしょうね、これ。
つまり、今日のお前はえらそうなことを言っても、所詮自己反省もできないおバカさんだ、とでもいうのか。
事ほどさように、この運勢欄、何となくおかしいのだ。
あんまり、具体的に今日は彼女をさそうのに絶好の日だ、などとは書いてくれない。
いつも、何か難しいことを言って、後は自分で考えろというのである。
女の子には絶対人気のない欄だろう。
ただ、時々、今日は盗難の相があるから気をつけろ、なんて書いてあることもある。
読んだ時は、こりゃ気をつけないとと思うが、すぐに忘れてしまう。で、後から考えると何も盗まれてはいない。
ま、女性に心を盗まれかけたことぐらいはあったかもしれないが。
つまり、あんまり具体的なことは当たっていそうにないのだ。
でも、毎朝、読んでしまうのがこの運勢欄。
早い話、日課ですね。歯を磨いたり、散歩したりするのと一緒。
日課が多くて、それを心から楽しめるのなら、こんな充実した人生はないではないか。
そう思いませんか?幸せなんて、所詮こういったひとつひとうの積み重ねなんですよ、きっとね。
金がないのが玉にキズ、安部邦雄