昔の江戸は職人の町でした。
今でいう公共事業のメッカが当時の江戸。
そこに各地から様々な職人が集まってきました。
住まいは長屋。
職人は商人のように掛け売りではありませんから、仕事をしている限り現金に困るようなことはありません。
勢い、「宵越しの金は持たねえ」なんていう啖呵を切ったりするわけですね。
職人は極めてパターン化した生活を送ります。
パターン化を極めると様式美が確立します。
いわゆる「江戸の粋」ですね。
実は、この江戸の様式美というのが今も存在しているのに近頃気が付くようになっています。
例えば、私達放送業界にもこの職人的美が色濃くあります。
私が東京で番組を作っていて、まず最初に思ったこと。
東京のディレクターはテキパキと働くということでした。
段取りで仕事をしているのです。
これが終わればこれ、それが終われば次はこれ、という風に。
途中で、考えを変えるなんていうのはなさそうです。
番組が始まれば、その日の段取りはよほどの事がない限り変えない。
私なんか、どちらかというとハプニング大好きなので、無理矢理にでも何か起こせばいいのにと思うが、誰もそんなことしそうにない。
そこで思った、お前達やっぱり職人だぜ。
それゆえ言葉も荒い。
ADや外部の若いスタッフに対してぼろくそに言う。
「何やってんだ!バカやろう!」
そんな罵声があちこちで響く。
大阪じゃ考えられない。(京都の太秦に行けば、同じような罵声が聞こえるらしいが。)
番組は確かに滞りなく進行する。
しかし、正直言って私はあまり面白くない。
もっと、タレント(DJ)と丁々発止があってもいいのにと思うが、そんなことは誰もしない。
もう一つ思ったこと。
東京のミキサーは、スプライシング・テープを使った編集が大好きのようだ。
デルマ(黄色い色鉛筆みたいなマーカー)でテープに線を引き、斜にカットしてつなぎ合わせる。
不要なテープを首からかけて、又次の編集ポイントをチェックして、又つなぎあわせて。
おそらく彼等はその作業をカッコイイと思っているんだろう。
もちろん、私も大阪時代よくやった作業ではあるが、こんな風に職人的なやり方はしなかった。
できればテープの切り貼りなんてあまりやりたくない。
いや、少々問題があってもあまり切りたくなかった。
その時に面白いと思えばそれでいい。
そんな職人的な動きはしたくなかったのだ。
私はおそらく、職人よりもアーチストをめざしていたのかもしれない。
それゆえ、東京の放送マンが堅苦しく思えて仕方がなかった。
でも、そうなのだ。
東京は職人の街なのだ。
私の違和感は、彼等の職人気質ゆえなのだ。
近頃、大阪の放送局も東京からスタッフが流れた所為もあるのか、少し職人的な作り方をするようだ。
様式を会得した方が番組作りは早い。
しかし、それだけで良いのかどうかは疑問が残る。
近頃、大阪の番組もあまり面白くないとしたら、そのへんに原因があるのではないかとちょっと思ったりしているのです。
時間がないのに、難しいことに挑戦してしまった、もう少しまとめないといけないなと反省している、安部邦雄