ある衛星放送の会社でデータベースを作れといわれた経験があります。
データベースで曲をセレクトし、その曲の入ったCDを自動的にオンエアするという放送システムを目指していたのです。
面白いなあ、とは思いましたが、じゃあ明日からデータベース作ってといわれたのにはちょっと驚きました。
データベースをどんな形式で作るのか、全くイメージがなかったのです。
唯一あるのは、もと居たFM局のレコード管理システムの知識だけです。
データベースで曲を自動演奏させるといわれてもねえ、というのが私の正直な感想でした。
とりあえず、どんなデータベースを作るのかと上司に聞くと、衛星放送を実質的に運営しているFM局と同じ形式をとってほしいと言われました。
で、その局のレコード室長に、データベースのパターンを教えてもらいにいったのですが、これが又とんでもない代物。
データはある法則性の下に正確に打込むこと、この法則性は独自のものなので予め学習を完璧にしておくこと、データが不確かな場合は、正しい情報を徹底的に追求し、それまでデータを完成させないこと。
誰からもその瑕疵を指摘されないよう、データを打込む時は万事遺漏なきように努めること。
これは業務命令である。
で、こんな条件でやっていたら、データベースを揃えるのにどれだけかかるのですか?私は聞きました。
一人のオペレーターで、1日にアルバム5枚が限度ですから、5人雇ったとして、25枚、1ヶ月で750枚と言う計算ですね。
あのう既に買ったCDは1万枚あります。
放送までは後3ヶ月。
全然間に合わないじゃないですか?
そうですか?でも、私達とデータベースを共有する気なら、このペースは守ってもらわないと困ります。
最初から完璧なデータベースを作ろうというのが、この人たちの信念のようでした。
私達は、システムを動かす為のデータベースが必要なだけで、完全無欠のデータベースが欲しいわけではありません。
で、適当に必要なデータだけを入れて、システムを動かすことだけを目指したとたんに、どえらいクレーム。
勝手なことはしないでくれ!
私達の仕事を冒涜するつもりか!
で、思いました。
誰のためのデータベース、何に使う為のデータベース?
レコード広辞苑を作りたいのかもしれないけど、言葉は毎日そんなに生まれるものじゃないでしょ。
レコードは毎日どれだけの枚数が生まれると思っているんですか?
そんな生まれたばかりのものに、いきなり完璧なデータベース作ってどうするんです?
生まれたものが、その途端に普遍的な意味を持つわけじゃないでしょ。
大衆に受け入れられ、ヒットしていく中からデータベースに普遍性が付加されるのではありませんか。
言葉なんか、まさにそうじゃないですか。
色んなスラングが思いつきで生まれるけど、そのほとんどは瞬時に消えてしまうものなのです。
人々のフィルターを通って、言葉は普遍的なものになり、データベースとしての意味も生まれるのです。
何故、発売されたばかりのレコードのデータを、そんな普遍的な意味を持つデータと同じ扱いをするのですか?
そんなの、最初は適当でいいはずでしょう。
間違っていたら淘汰されるだけでしょ。
別にいいじゃないですか?
言っても空しい正論でした。
結局、私のデータベース作りは途中で実にいい加減になりました。
レコード室からは、裏切り者扱いされたり、無駄金使いみたいなことを言われましたが、もうその頃はどうでもいいや、という諦めが私を支配していました。
番組を作るのが私の仕事なのです。
普遍的なデータベースを作ること等、私の仕事ではありません。
今から考えると、もうちょっとうまい立ち回り方があったような気もするのですが、その時の私にはおそらくそれ以上の能力はなかったでしょう。
データベースへの考え方も、当時と今ではずいぶん違います。
データベースに必要なのは正確性でも持続性でもない。
データベースがどれだれリアルタイムに対応できるのか、そのためのシステム構造が一番大事なのだと、今の私ならはっきりと断言できます。
実際当時は悪夢みたいな日々でした。
これを書きながらイヤな場面を一杯思い出してしまいました。
あ?あ、当分あの当時のことを思い出すのはよそう。
この話は、今日でとりあえずやんぴにします。
データベースの話は又いつか。
考えれば、この更新欄も立派な1つのデータベース、問題は後で取り出しやすいように分類整理できるかどうか、さて、どうしたものだろう?安部邦雄