私の友人が、会社のやり方と衝突し、唐突に辞めてしまった。
このままいても、これ以上出世する見込みもない。
業績も今年ぐらいから落ち込むだろう。
いい機会だ、辞めてしまおう。
1千万円あまりの給与を捨て、先月から独立し、新しい世界に挑戦を始めている。
家庭の中では、色々もめたようだ。
子供もまだ教育費がかかるし、家のローンもある。
少しの貯えがあるとはいえ、これからどうなるかわからない。
何て軽はずみな行動だ、と非難轟々とか。
親戚筋からも、苦言が一杯押し寄せてきたらしい。
だいたい、会社を勝手な理由で辞めるのが気に入らない、そんなんじゃ、どこへ行っても成功しないぞ。
新しく会社を始めるのはいいが、何かメドでもあるのと聞く私。
従来のクライアントが、独立しても仕事をまわしてあげると言ってくれているので何とかなるはず、とのこと。
少し楽観的すぎるのではと思っていたが、その時には口に出さなかった。
先日、彼の新しい事務所を訪ねた。
どう、うまくいっている?
彼の顔は冴えなかった。
期待したほど、仕事はもらえなかった。
正直、困惑していると、威勢のよかった彼の声はトーンダウンしていた。
そりゃ、世の中そんなにうまく行くわけないよ。
励ます私に、面目なさそうにする彼。
そう、思惑なんて、簡単にはずれるもの、諸行無常、確実なものなんか基本的に世の中に存在するわけないのだ。
話をしながら、落語の「唐茄子屋政談」を思い出した。
遊びすぎて、”お天道様と釜の飯は付いてくる”と自ら勘当された若旦那、最初の内は良かったが、その内誰にも相手にされなくなる、という話。
”お天道様と釜の飯は付いてくる”という彼の世界観は、自分の大店があってこそである。
大きな会社がバックにあってこそ、自分の裁量で”お天道様と釜の飯は付いてくる”と豪語できるのである。
そこから離れて、今までの世界観は通用しない。
思惑ははずれるのである。
これは私も会社を辞めて経験したことである。
プライドもあるし、意地もあるだろうが、無理して突っ張ったりしないことが大事だ。
家族のものからは、とっくに心の動揺は見すかされている。
謙虚であれ。
自分自身に素直であれ。
失ったものは、二度と戻っては来ないのだから。
若い頃から、会社を何度も変わった経験がある人ならいいが、ずっと同じところにいて会社を辞めるというのは、相当戸惑うはずだ、特に50を過ぎてからとなると大変だろう、皆さん、大丈夫?安部邦雄