ある会社の役員の方が私の知人を評してこう話された。
「彼は、色んな話を持込んでくるんだがね、結局、そのあたり掘り返すだけ掘り返して、元に戻さないでどこかへ行ってしまうんだ。おかげで残ったものは大迷惑だ。」
面白い表現だなと思った。
掘り返して元に戻さない、私の知人以外にも少なからずそんな人はおられそうだ。
なにしろ、この知人は、色んな人を知っている。
又、人間はそれほど悪い方ではないので、その顔の広さを慕って、新しい人がやってくる。
ちょっとでも面白そうだと思うと、この人、すぐにそれと関連がありそうな人のところに話を持って行く。
両者の間を取り持ったりして、本人はちょっと得意になったりする。
ただ取り持ち方に難がある。
どちらをも、ほとんど内容のないままにその気にさせてしまうのである。
どう見ても、両者はマッチングしないと思えるのに、本人は全く斟酌していないのだ。
両者は、この知人の言を信じて、それぞれ新しい投資に走る。
しかし、何だかんだがあって、やはりうまく行かない。
本人、しれっとして、うまくいかないですねえ、どうすればいいですかねえ、等と一緒に嘆いていたりする。
マッチングしなかったリスクを少しでもとろうとするのが間に入ったものの責任だろうと思うのだが、そんなのは当事者の問題で、私は間に入っただけだと強弁する。
関係者は、もう既にそのあたりを掘り返しているのである。
それも、私の知人がここ掘れワンワンと言ったから、掘ったのだと思われている。
にもかかわらず、知人は答える。
私はワンワンと言ったが、ここ掘れとは言っていない。
そうでしょ、
私はワンワンとしか言っていない。
それを聞いて、貴方がここを掘ったからと言って、私に何の責任やある?
せめて戻すのを手伝って上げればいいのに、顔の広い彼は、もうすでに他の人に別の場所を掘り返させていたりするのだ。
でも、おかしいだろう。
こんな掘り返させるだけで、何の収穫も得られていなければ、彼にさえ分配されるものはないはずだ。
一円も儲からない。
彼は、ではどうやって金を得ているのか。
簡単だ。
彼はサラリーマンであり、毎日、会社に出勤しウダウダしていても、そこそこの給料を得られるからだ。
掘り返して元に戻さなくとも、彼には何の不利益もない。
人は利益を追求する為に、日々汗水たらして働いたり、自分の頭を使って色々な工夫をしている。
しかし、私の知人は、利益を追求しているフリをしながら、実際は何も会社のために獲得してはいない。
仕事をしているふりをする、単なる自分の仕事の時間をつぶしたいがために。
悲しいのは、彼が自分のやっていることは仕事だと信じ切っていることだ。
確かに利益は出していないと言われるかもしれないが、私のやっていることは、何にもしないで毎日会社にいる他の連中よりはるかに有益な存在だと思っているのだ。
私から見れば、単に自分の暇つぶしの為に、余計なおせっかいを焼いているに過ぎない。
何の利益も出さず、上昇的スパイラルを起こすこともなく、会社から当然のように給与をもらいながら、あたかも仕事をしているかのように自分を見せびらかす男。
掘り返して元に戻さない男。
こんな男を、あなたはどう思いますか?
つまり、こういう人は、大抵自分の頭では何も考えていない人です、人の意見をあたかも自分の意見のように思い、足りない部分は、又だれかの意見で補う、できの悪いパッチワークのような理論を振り回しているのは唯滑稽なだけだと私は思っているのですが、安部邦雄