これからのビジネスを考えるにあたって、意外と重要なキーワードが「感情移入」ではないかと思う。
感情移入:対象の中に自分の感情を投げ入れて、
それによって対象の持つ感情・動作・作用等を
明らかにつかむための心の働き。
(講談社 新版国語辞典)
何じゃ、この説明は。
わかる人はわかってもらえると思うので話をすすめる。
映画がヒットしたり、小説がベストセラーになったりする時の重要なファクターが、この「感情移入」だと私は思う。
主人公に自分が同一化して、あたかも自分がそこにいて、主人公と一緒に色々な体験をするような気持ちになる。
これが「感情移入」である。
舞台なども同じである。
出演者の誰にも素直に「感情移入」できないような作品は絶対にヒットしない。
もちろん、お目当ての役者がいれば、作品以前に感情移入できているわけだから、そのファンの先入観を覆すようなことをしない限り、その作品はその役者の出演によってそこそこのヒットはする。
ジャニーズ系の舞台はたいていこのパターンである。
もし、ジャニーズ系のアイドルが、ファンの夢をぶっこわすような演技をしたら、ファンはおそらく動揺するだろう。
お前達が思っているおれの姿と、本当の俺の姿は全く違うのだ。
おれは、こんな作られたアイドルのイメージにはほとほと飽きた。
おれは、お前らなんか、本当は大嫌いだ!
こんな態度を嘘にもせよ見せつけたら、ファンの女の子達は一瞬にして感情移入のとっかかりを失ってしまうのである。
あいまいな自分に戻ってしまい、取り付かれていたように狂乱していた自分がひどく惨めに思いはじめたりもする。
つまり、ヒットする、あるいは享楽するためには、「感情移入」という前提が必ず存在すると私は思うのだ。
自分があたかも、そこにいる誰かに自分の感情を託し、バーチャル体験できること、これがヒットの鍵ではないだろうか。
ビジネスの話に戻ると、これからの商品は常にどこかに感情移入できる部分を持たないといけないと思う。
共感度と言い換えてもいいかもしれない。
あ、これ面白い、とか、うん、わかるわかる、とか、やん、かわいいー、とかいうあれである。
ヒット曲などというのも同じだろう。
宇多田が売れるのは、彼女の歌、PVなどに感情移入できるものがあるからだ。
浜崎が前程さえなくなったのは、彼女にまつわる噂が感情移入を疎外する方向で働きはじめたからではないか。
素直に感情移入出来なくなったアーチストは、どれだけイイ作品を出しても前ほど評価されない。
松山千春もそうだ。
なまじっか、鈴木宗男の擁護をしたばかりに、素直な感情移入を不可能にしてしまった。(友情ゆえと考えれば、それはそれで立派といえなくもないが。)
avexがCDをコピーコントールという技術(CCCD)で歪めたことも結果的には同じ現象を生んでいる。
人気商売なのに、感情移入を阻害するようなイメージを打ち出してしまったのだ。
著作権を守る為、文化を守る為と言っても、それは感情移入しやすくなるベクトルを産みはしない。
気持ちが離れたファンは、二度と戻って来ないと知るべきだろう。
そこには、男女の恋愛関係に近い感情があると言っても過言ではない。
人は基本的に、興味の対象に対しては、一度でも感情移入を試みると思ってさしつかえない。
だから、興味の対象になりたいと思うものは、できるだけ相手の感情移入をさまたげるようなことはしてはならない。
ビジネスでも同じ。
営業マンひとりひとりも自覚してほしいことだ。
とはいえ、「感情移入」をビジネスのキーワードにしようといっても、ほとんどの人はピンと来ないだろうなと、今これを書きながらちょっと思ったりしている。
私としても、まだ生煮えな感がしないでもないが、とりあえず思うところを軽く書いてみました。
感情移入をしてもらうためには、まず偉そうにしないということ、つまりあなたと私はフラットであるということを見せる、次に自分をシンプルに見せることだ、ややこしければ感情移入を相手はあきらめるだろう、うざったいと思われるだけだから、御用心、安部邦雄