会計事務所の先生としばらく話をした。
先生は、先日株主総会に出席したという某電鉄会社の決算書を見せてくれた。
なかなかの利益を計上した黒字決算である。
電鉄系って、あまり好材料もないのによくやってますねえと私が言うと、先生は首をふりながら、「こんな表面的な数字を信じたらあきません。」とおっしゃった。
「本当に利益が出ているのなら、法人税の数字がこんなに小さいはずはない。これは均等割を払っているだけです。」
法人税の均等割、へえ?、じゃあ、利益は出ていないってことなんだ?
ところで、法人税の均等割って、御存じない方が多い。(私も経営者になるまで知らなかった)
外形標準課税と似ている。
資本金額に応じて、利益が出ようと出まいと払わないと行けない税だ。
これは地方税で、そこで事業を営むなら、これだけのショバ代を出せということらしい。
私の会社は、ここ7年ぐらい国に払う法人税は一円も払っていないが、大阪府と東京都には、この均等割を毎年払っている。
消費税もちゃんと収めないといけないし、経営者って本当に何だか大変だ。
話がそれた。
先生は、その電鉄会社の株主でもあるのだが、この会社は当分利益を出すのは無理だろうと言う。
理由は、経営陣がプロパー、つまりずっと同じ会社にいて、昇進して来た役員ばかりだから、らしい。
電鉄会社は、今のビジネスモデルではもう頭打ちだと言う。
これ以上、今までのやり方で売上をあげること等出来ない。
ところが、あいかわらず電鉄マンは、電鉄こそ日本の産業を支える屋台骨だと信じて疑わない。
どんな事業より電鉄は優位であるというプライドが鼻につくほどである。
しかし、電鉄はどう考えても躍進する時代は終った。
特に大都市周辺なんか、これ以上どう売上をあげろというのだ。
電鉄業界も必要なことは、電鉄以外に企業の生きる道を探すことだという。
その為には、社内の構造改革が不可欠。
しかし、プロパーの経営者には、自分達を否定するような改革は絶対にできないということらしい。
半分は、全く電鉄以外の業界の人を役員に迎えるべきだ。
自分で自分を手術できる人間なんて、いるはずがない。
話を聞きながら、私のいた放送局もまるで同じだなあと思った。
昔は、役員の半分は、放送局以外から来ていた。
今や、プロパーが育ったということであろうか、ほとんどが社内から昇進した役員である。
その放送局も、今や完全に頭打ち。
電波を独占することによって、80%前後の粗利を稼いで来たが、今や電波を独占するだけでは売上の伸びは得られない。
インターネットの出現も、既存メディアの媒体価値を脅かしている。
過去のアドバンテージは、砂時計のように少しずつ崩れながら落ちて行っている。
放送局に必要なことは、今までに築いたノーハウを他の部門に拡大することによって、新しい業種を開拓することだと私は思う。
だが、ある役員の話を聞くと、取締役会には、そんな気運は少しもないという。
どんな事業であれ、本体の放送事業に何らかのメリットが還元されなければ、やる事自体に意味がないと判断されるらしい。
結果的に、何もなされない。
議論しながら、またあるものはダンスホールで我が世の春を満喫しながら、放送局というタイタニックは次第に傾き、そして海のもくずと消えるであろう。
その沈む様を今はただ静かに見届けるしかないのかもしれない。
もちろん、私も又、本当は沈んでほしくないと願うひとりではあるが。
構造改革なんて、こんな平常時に本当にできるものだろうか、政治でいえば、自民党のような政治体質がのさばる状況で、景気回復なんてありえるのだろうか、正直どこか諦め気分の、安部邦雄