先日、近く起業するというサラリーマンと話をする機会があった。
会社から半分資本金を出してもらい、残りを自分が出して株式会社を作るという。
以下、その時の会話。
「で、会社のポリシーは何なんですか?」
「ポリシー?いえ、別に考えていませんが、とにかく業務はこういうのとこういうのの二つを考えています。」
「それは今の会社でやっておられたことの延長ですね。でも、それをこれから作ろうとする会社でないと行えないというモノはなんなのですか?」
「よくわかりませんが、会社の特徴を聞いておられるんですか?」
「そうじゃなくて、経営者としての自覚を聞いているんです。わざわざ会社を起こして迄やることなのかどうか、そのあたりをどう考えておられるのかと思って。」
「だから、これからは独立して自分の思うように仕事をしたいということですよ。」
「それは自分に対しての言葉ですよね。外の人はそれじゃ納得しないですよ。一体、あなたが独立することによって、外の人はどんなメリットを享受できるようになるのですか?それがなかったら、今の会社でやっているのと同じなわけで、仕事の差別化なんかはかれないと思いますよ。」
何か禅問答のような話になってしまった。
会社を独立するのは、今のまま会社にいても人間関係がわずらわしいだけだし、出世の見込みもない。
ならば、今つき合っている業者のすすめに乗って独立し、そこと仕事を継続させればいいのでは、と思ったようだ。
こういう独立、確かに多い。
業者からすれば、名のある会社でそこそこ仕事ができた社員に独立してもらって、自分のところの仕事を代わりにやってくれる(あるいは売ってくれたり、間をつないでくれたり)のはウェルカムである。
何しろ、リスクは向こうが勝手にもてくれるわけで、儲かったら一部を手数料として払えばよいだけだ。
で、往々にして、こういう独立は失敗する。
毎月金がある程度入って来るという見込みもなしに、独立すれば、後は焦りしか残らない。
資本金があるとか、自分の資産がある等と言っても、そんなものは会社を経営するとあっというまに消えて行く。
必要なものは毎月定期的に入って来る収入なのである。
収入があってこそ、初めて経営計画が立てられるのである。
収入計画なんてこの際どうでもよい。
具体的な収入はいくらあるのか。
だいたい、モノを売っても掛け金を回収するには最低3ヶ月はかかるのだ。
経営者にとって、一番克服することは焦りである。
よく、金融業者に食い物にされる経営者の話が出てくるが、これなど焦り以外の何ものでもない。
相手はプロである。(これは、銀行もおなじこと)
焦っている客をコントロールすることぐらい朝飯前である。
だから、経営者は焦りを見せてはいけない。
いや、その前に、焦っている自分を自覚しないといけない。
これが意外に難しい。
経営なんて誰でもできると思って独立する人に、これだけは言っておきたい。
大事なのは、自分との戦いなのだということ。
敵はすべて自分の中にいるということ。
自分の甘さを1つ1つ実感していく、それが経営なのである。
克己心なくして経営の成功はない。
でも、同じようなこと、色んな本に一杯書かれているんだけど、結局みんなちゃんと読んでいないんだろうな。
ま、私もそのひとりだったのかもしれないけれど。
ベンチャー起業のすすめなんて本にはあまり経営哲学については書かれていないで、制度的な説明ばかりが目につく、経営者の仕事は専ら資金繰りと人の使い方と言われているが、その前に哲学の勉強をしておいた方がいいのではと思う、安部邦雄