大阪を離れて16年間。
その間に過ぎた日々は、その重さとともに今の私に帰ってきている。
どうして、そんなに長い間、大阪を離れたのだろうか。
まるで、浦島太郎の心境だ。
確かに東京では、鯛やヒラメの舞い踊りはあったが、乙姫さまと言えるような人にはついに出会えなかった。
はっと気づいたら、何て年を取ったんだろう、いつの間に、という深い喪失感が残る。
で、今日も私は大阪の街を歩き、かって交わった人の元を訪ねる。
相手は、最初は「ええと誰だったっけ?」という顔をする。
しかたがないので、「FM大阪にいた安部です。」というと「ああ、あ?、安部さんだあ、久しぶりですねえ。」となる。
私も街で会えば、おそらくその人であることはわからないかもしれない。
そのぐらい、遠い時間が流れたのだ。
でも、懐かしいだけで、今の私の作業が終わるわけではない。
昔の記憶を引っ張り出し、そのときの模様を相互確認する。
何が事実で、何が記憶の誤りだったのか。
毎日、気持ちのいい脳のゆらぎを感じている。
この作業のはてに、どんな成果が生まれるのか。
今はそれがとても楽しみ。
でも16年間の空白は伊達じゃない、自分にとっては小さな隙間でも、実際には対岸の見えない大河だったりする、安部邦雄