久しぶりに銭湯に行った。
木綿の手ぬぐいで身体を洗っていたとき、ふとスフという言葉を思い出した。
スフ、ステープル・ファイバーのことである。
若い人は知らないかもしれない。
実は、私もスフそのものは見たことがない。
ただ親から、銭湯に行ったときによく聞かされた言葉なのだ。
戦争中から戦後にかけての物資が不足していた頃、木綿の代用品として作られたのがスフだという。
スフ、ステープル・ファイバー、木材などから作られた繊維で綿花の代用品、くずわたのこと。
以上が辞書に書かれていること。
で、親の世代が銭湯で使っていたのがこのスフの手ぬぐいなのだ。
なにしろ、木材の繊維をステープル、つまりくっつけて、それで手ぬぐいを作ったのだから、強く身体を洗ったりするとすぐぼろぼろになるのだという。
私たちはこんなに苦労したという体験談にスフは欠かせない言葉のようなのである。
今の時代、スフなど作っているところはおそらくなかろう。
早晩死語になる言葉のひとつかもしれない。
メリヤスという言葉とともに。
ホンコンシャツ、なんて言葉もやばそうである。
どんなシャツか答えてみなさいと若い人に言っても、まず答えられまい。
もはや辞書にも載っていまい。
ホンコンシャツ、つまりはワイシャツのことなのである。
ワイシャツって、今ではたいてい透明のビニールの中に入れてあるが、昔はたいていは箱入りだった。
そして、その箱には何とホンコンの風景がデザインされていたものだった。
何故、ホンコンシャツというようになったのか。
ひょっとしたら、ホンコンから日本にもたらされたものだったのかもしれない。
ジャガイモがジャガタラ(インドネシア)からきた芋という意味だったように。
そういえば、ワイシャツも何となくヤバそうな言葉である。
TシャツはTの形をしているからTシャツ、ワイシャツはYの形をしているからYシャツだなんて思っている人もいそうである。
もちろん、これは大マチガイ。
ホワイトシャツが日本人にはワイシャツに聞こえたからワイシャツとなったわけで、本来ベージュのワイシャツとか青いワイシャツなどというのはありえないのだ。
などと、湯舟に肩までつかりながら、想いをめぐらしてみました。
ま、典型的なヒマネタのひとくさりでおます。
うわあ、まもなく日が変わるよー安部邦雄