近年、よく使われるようになった外来語のひとつ。
スタンディング・オベイション、立って、拍手喝采することを指す。
大リーグ中継でよく見られるし、アナウンサーもこの言葉をくり返し使う。
私がこの言葉を最初に聞いたのは、クラシックの会場だったと思う。
テノールの歌手がシューベルトの「冬の旅」を歌い終えた時、場内一斉に拍手。
歌手が一度退場するが、アンコールで再び登場。これを一、二回くり返した後、それまで座っていた客が立ち上がってさらに拍手。
「ブラボー!」なんて叫んでいる男もいる。
何やねん、ブラボーって!
スタンディング・オベイション、私の最初の体験はちょっと頭が混乱したものだったが、最近、人をほめる時は、立ち上がって当然なんて風潮が感じられるようになった。
ただ、私はどうもこういうシチュエーションで立つと言うのにはまだ少し抵抗がある世代だと思う。
日本人は畳文化なので、立ち上がることは基本的に不作法とされていたし、私もそういう風にしつけられてきた。
最近はフローリングだとかソファだとかで、寛ぐようになって来た為、あまり立ち上がることは不作法ではなくなったようだが、それでも心のどこかで無闇に立つべきではないという意識が働く。
それゆえ、人を讃える時に立つというのは、まだまだ自然にはできないというのが本当のところだ。
そう言えば、ロックコンサートで、客が最初から立つことができるようになったのはいつ頃からなのだろうか。
思い出すのは79年だったと思うが、ランナウェイズの来日コンサート。
女性ばかりのロック・グループで、下着姿で歌う過激な女性ロッカーという評判。早い話、キワモノ扱いされていたバンドだった。
私は大変気に入っていたので、うれしがって見に行ったのだが、予想以上にうまかったというのがその時の感想。
考えたら、ギターがジョーン・ジェットにリタ・フォードだったから実力があるはずだ。
その時に注目されていたのは下着姿で歌うシェリー・カリーだけだったが、私の印象では、ボーカルはジョーン・ジェットの方がはるかに迫力があり、リタのギターワークはプリンセス・プリンセスの比ではなかった。(比べる相手がおかしい?)
で、その時にジョーン・ジェットが客をアジった言葉が強烈だった。
「あんたら、何ですわっとんねん!うちらの音楽聞きに来たのとちゃうん!どやねん!」
一部の客、立ち上がりながらイェー!なんて叫ぶ。とたんにバイトの警備員が、思いきり立ち上がった客を椅子に座らせる。
当時は、コンサートの最中、客は絶対立たせてはいけない。
立たせたら、ロックには二度とホールは貸さない、そんな厳重なお達しがあったのだ。
客は仕方なく、座って、ジョーンの挑発に合わせて、イェーイ!
「何がイェーイじゃ、立ちあがらんかい、立って言わんかい!うちらの曲、聞きたないのんか?どないやねん。」
イェーイ!
これじゃ、聞きたくないと言っているのと同じだ。
あきらめたジョーンは「You get it」と力なく言って又演奏に戻りましたとさ。
いつのまにか、ライブは最初から最後まで客は立ち上がっていても誰も文句を言わなくなった。
スタンディング・オベイションは重要な表現手段と認知されるようにもなった。
日本人は畳から離れることによって、違った文化を新たに摂取しようとし始めている。
次はどんな風習が取り入れられるのか、私としてはちょっと興味津々なのだが、さていかがあいなりますやら。
立ってるものは親でも使え?安部邦雄