高校時代、タイガースの「モナリザの微笑み」を歌いながら、あるバス停で彼女を待っていた。
雨がしとしと日曜日 ぼくは一人で君の帰りを待っていた。
彼女はいつも友人と一緒にバスを降りて来る。
「や、やあ」
あ、又来てるんだという顔をする彼女。
友人は、私を見てその場を去っていく。
残った彼女と私。
喫茶店に行き、他愛のない世間話。
夕暮れに彼女の家まで送っていき、そして別れる。
2時間半も彼女と電話したことがある。
彼女の家には電話はなかったのか、いつも彼女が近くの公衆電話からかけてくる。
当時はまだ市内電話なら無制限で10円の頃。
ずっと、電話ボックスを占領しているせいか、変な人が近づいて来るなんてよく言っていた。
そりゃ、そうだろうなあ。
他にも電話を利用したい人が一杯いたはずだから。
彼女とは学校が違っていたから、そんなにしょっちゅう会えるわけではない。
私も月?土の放課後はサッカー部の練習。
一年生だったから、練習は慣れない分とてもきつく、帰りの電車ではいつもへとへとだった。
足が死ぬほどだるく、たいてい足を投げ出して座っていた。
迷惑な客だ。一人で一列分独占しているのだから。
彼女に会えるのは、試験のシーズンぐらい。
その頃は練習も休みになる。
学業優先のクラブ活動だったわけである。
彼女の家には電話がない。
それゆえ、彼女が帰って来るだろうという時間に、ただバス停で待っているしかなかった。
だから、タイガースの歌を歌いながら、ぼーと彼女を待つのだ。
花咲く娘達は、花咲く野辺で
ひな菊の花の首飾り やさしく編んでいた
その時の気分にタイガースの曲は何故かよくはまった。
冬の坂道の落ち葉の丘に やさしいあの人は住んでいるのです
「落ち葉の物語」の一節。「ラーララララ、ラ?」、そしてチョコレートは明治、だったかな。
当時は、私は森永ハイクラウンチョコレートのファンだった。
一番好きなのが黄箱のピーナッツ、次に青箱のクランチ、黒箱のビターはまだ高校生にはきつかったかな。
鳳蘭さんがコマーシャルに出ていたと思います。
ま、話の本筋とは関係ありませんが。
待っている間が何となく楽しかった。
バスが何本もやって来る。
降りてくるかな?その次のバスは?
わくわくしたり、がっかりしたり。
でも、彼女に会えたのは5回に1回ぐらいだったかな。
偶然にすがるしかない、アホらしい恋物語。
もう35年近い前の話。
今日のしとしと雨に何故か思い出した次第。
何故、こんな変則的な付き合い方をしたのか、実を言うと私にもよくわからない。
彼女の家庭環境に問題があったのかもしれないし、もっとややこしい話がからんでいたのかもしれない。
でも、それは今さらどうでもいい。
今もどこかで元気で生きているだろうな、と思う。
いい時代だった。
思い出す度に心和む、ひとときの夢だ。
♪In my Life I love you more...♪
この欄に、こんな話はふさわしくないかも、安部邦雄